った。死気とも言えるものを、彦一はまともに感じた。一瞬、不気味さが憤りに変った。彼は一歩踏み出した。相手は小揺ぎもしない。彼はまた一歩踏み出し、同時に、拳固の一撃を相手の横※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]に喰わした。
彦一にとって意外だったのは、たしかに手応えがあったことだ。相手は人影でもなく、死気でもなく、なまの肉体の重みでばったり倒れ[#「倒れ」は底本では「例れ」]、葦の茂みがざわざわ揺れた。夜気が渦巻き、総毛立って、それから冷りと静まる。張り合いのない真剣さだ。何物へともない、憤怒、そして憎悪……。
彦一は靴の足先に、堅い重いものを意識した。土瓶大の石塊だ。それを彼は両手に取り上げ、地面に伸びてるものに向って、力一杯投げつけた。穢らわしい感じの、鈍い音がした。
ざまあ見やがれ。吐き捨てるような思いだった。歩き出して、ふと空を仰ぐと、星々が燃えるように光っていた。
それから彼は、明るい街路に出て、屋台店でまた焼酎をあおった。アパートの室に帰りついたのは、深夜だった。
翌日の夕刊から次の日の朝刊にかけた新聞に、一本松の事件が簡単に報道されていた。大きく取扱われるほどのものではなかったが、少年の怪死体として、多くの謎を含んだ記事になっていた。
通称一本松と言われてる路傍の葦の茂みの中に、少年の死体が発見された。縊死する旨の遺書と、縊死に用ゆるつもりだったらしい細紐とが、懐にはいっていた。遺書は彼の自筆であり、細紐は彼の寝間着紐だった。然るに、死体には致命傷と見られる頭蓋骨折があり、そばに血まみれの人頭大の石が落ちていた。なお、左※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]下に打撲傷も見られた。明らかに他殺らしい。それにしても、格闘の形跡もなく、物取りの仕業とも思われなかった。
この少年は、一キロほど離れたところに中華ソバを営んでる伯父夫婦の、店の手伝いをしていた。少しく低脳、そして浪費癖があった。店の現金を持ち出しては、始終叱られていた。最近では、茨城県下の農家へ追いやられるとかの話があって、それを苦にしての自殺覚悟だったらしい。
だいたい右のような記事で、真相は明らかでなく、どの新聞のも大同小異である。
その記事の一つを、島野彦一はふと見つけた。そして各新聞を熱心に読みあさった。アパートにはいろんな新聞がはいっている。それらを彼は、監理
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