顔色を窺うような気持ちだった。
 周さんの相手の男は、もう五十年配の同国人で、俺も何度か顔を合せたことがある。その男へ、俺の知らない言葉で周さんはべらべら饒舌りたて、相手はなんども頷いた。
 そこの、腰掛に落着き、卓子に片肱でもたれかかり、甘酢の鶏肉をさかなに、温い真白な濁酒をあおっていると、俺はもう口を利くのも懶くなった。
 周さんは、その同国人へは俺の知らない言葉で、俺には俺の知ってる言葉で、こもごも話しかけた。それが却って遠慮ない態度に見えた。
「あんた、いいところへ来ました。もう、どぶろくも無くなりかけた。今晩、飲んでしまいましょうや。」
 ばかなことを言ってる。無くなったら、新たに仕入れすればいいじゃないか。周さんももう酔ってるようだった。それでいて、濁酒のお燗なんか自分でしていた。
「つねちゃんは……。」
 つねちゃんという若い女中がいたはずだ。
「暇をだしましたよ。今は、わたし一人きり。」
 俺はあたりを見廻した。千代乃さんはどうしたんだろう。
「千代乃さんは、また出かけたの。」
「千代乃……もうわたし、諦めています。死んだ者は仕方ない。」
「死んだ者……。とぼけちゃいか
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