を理想化しているのではないかと思った。しかもこうした考えはほんの一時的のもので、彼女の非常に真実なる性格のほうは、容易に彼を親しませるようになったのである。
こういう自由な交際をして、かれらは庭じゅうをさまよい歩いた。並木のあいだをいくたびも廻り歩いたのちに、こわれた噴水のほとりに来ると、そのそばにはめざましい灌木があって、美しい花が今を盛りと咲き誇っていた。その灌木からは、ベアトリーチェの呼吸《いき》から出るのと同じような一種の匂いが散っていたが、それは比較にならないほどにいっそう強烈なものであった。彼女の眼がこの灌木に落ちたとき、ジョヴァンニは彼女の心臓が急に激しい鼓動を始めたらしく、苦しそうにその胸を片手でおさえるのを見た。
「わたしは今までに初めておまえのことを忘れていたわ」と、彼女は灌木に囁《ささや》きかけた。
「わたしが大胆にあなたの足もとへ投げた花束の代りに、あなたはこの生きた宝の一つをやろうと約束なすったのを覚えています。今日お目にかかった記念に、今それを取らせて下さい」と、ジョヴァンニは言った。
彼は灌木の方へ一歩進んで手をのばすと、ベアトリーチェは彼の心臓を刃《
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