定し得ないことである。時どきに彼の治療が驚くべき偉効を奏し、あるいは奏したように見えたのは、われわれも認めてやらなければなるまい。しかしジョヴァンニ君。打ち明けて言えば、もし彼が……まさに自分が行なったと思われる失敗に対して、厳格に責任を負うならば、彼はわずかの成功の例に対しても、ほとんど信用を受けるにたらないのである。まして、その成功とてもおそらく偶然の結果に過ぎなかったのであろう」
 もしこの青年が、バグリオーニとラッパチーニの間に専門的の争いが長くつづいていて、その争いは一般にラッパチーニのほうが有利と考えられていたことを知っていたならば、バグリオーニの意見を大いに斟酌《しんしゃく》したであろう。もしまた、読者諸君がみずから判断をくだしてみたいならば、パドゥア大学の医科に蔵されている両科学者の論文を見るがよい。
 ラッパチーニの極端な科学研究熱に関して語られたところを、よく考えてみた後に、ジョヴァンニは答えた。
「よく分かりませんが、先生。あの人はどれほど医術を愛しているか、私には分かりませんが、確かにあの人にとって、もっと愛するものがあるはずです。あの人には、ひとりの娘があります」
「ははあ」と、教授は笑いながら叫んだ。「それで初めて君の秘密がわかった。君はその娘のことを聞いたのだね。あの娘についてはパドゥアの若い者はみな大騒ぎをしているのだが、運よくその顔を見たという者は、まだほんの幾人《いくにん》もない。ベアトリーチェ嬢については、わたしはあまりよく知らない。ラッパチーニが自分の学問を彼女に十分に教え込んだということと、彼女は若くて美しいという噂だが、すでに教授の椅子に着くべき資格があるということと、ただそれだけを聞いている。おそらく彼女の父は、将来わたしの椅子を彼女のものにしようと決めているのだろう。ほかにまだつまらない噂は二、三あるが、言う価値もなく、聞く価値もないことだ。では、ジョヴァンニ君。赤葡萄酒の盃をほしたまえ」

       二

 ジョヴァンニは飲んだ酒《ワイン》にやや熱くなって、自分の下宿へもどった。酒のために、彼の頭はラッパチーニと美しいベアトリーチェについて、いろいろの空想をたくましゅうした。帰る途中で偶然に花屋のまえを通ったので、彼は新しい花束を一つ買って来た。
 彼は自分の部屋にのぼって、窓のそばに腰をおろしたが、自分の影が窓
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