光らないからだけのことでした。それから彼は、袋の中の金貨をすっかり数えて見たり、延棒を抛り上げて、落ちて来るところを受けて見たり、指の間から金粉をさらさらと落して見たり、それから、コップのつるつるした胴廻りにうつる自分の顔のおかしな映像《かげ》を眺めたりしては、『おう、マイダス、お金持の王様マイダスよ、御身《おんみ》は何という仕合せ者だろう!』と独りでささやいて見るのでした。しかし、彼の顔のかげが、コップのつるつるした表面から、彼に向って歯をむき出して笑ってる様子は、見るも滑稽なものでした。それは彼のおろかな行《おこな》いをちゃんと知っていて、彼を馬鹿にし度《た》がっているようにも見えました。
 マイダスは自分を仕合せな人と呼んでは見たものの、まだ自分の望んでいるほど幸福になり切っていないという気がしました。全世界が彼の宝の庫となって、それに全部自分のものである黄金が一杯にでもならなければ、すっかり満足し切るところまでは行かなかったのでしょう。
 さて、君達のような利口な子供には、こんなことを言う必要はないかと思うが、マイダス王が生きていた古い古い昔には、今日《こんにち》この国で起った
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