ってしまうだろうに。それから、隠兜《かくれかぶと》だってさあ! その中に彼がとっぽりとはいれる程の大きさがなくちゃ、どうして兜が彼を見えなくしてしまうことが出来るものかね。それから魔法の袋だって! それはまた何《ど》んな仕掛になってるものやら? いや、いや、他所《よそ》のお人! あたし達はそんな不思議な物のことは一向知りませんよ。お前さんは御自分の眼が二つもあるじゃないか。ところがあたし達には三人に一つしきゃない。お前さんの方が、あたし達のような三人のめくら婆さんよりも、そういったような不思議なものを、よく見つけることが出来ますよ。』
 パーシウスは彼等がこんな風にいうのを聞いて、白髪婆さん達がそのことをなんにも知らないのだと、本当に思いかけました。そして彼等を大変困らしたことが気の毒になって、今少しで彼等の眼を返してやって、それを奪い取った無礼を詫びるところでした。しかしクイックシルヴァが彼の手をおさえました。
『彼等にだまされちゃいけない!』と彼は言いました。『ニンフ達の居処を君に教えることが出来るのは、世界中でこの三人の白髪婆さんだけなんだ。そして、君はそれを知らないでは、蛇の髪をしたメヅサの首を首尾よく討取《うちと》ることは決して出来ない。その眼をしっかりと掴《つか》んでいるんだよ。そうすれば万事うまく行くんだから。』
 後で分ったことですが、クイックシルヴァの言ったことに間違いはありませんでした。眼ほど人間が大切にするものはちょっとありません。それに白髪婆さん達は、もともと三人で六つの眼がある筈のところ、一つしかなかったのですから、それを六つの眼に負けないくらい大切に思っていました。それを取返す方法がほかにないと知って、彼等もとうとうパーシウスに彼の知りたがっていることを教えました。彼等が教えてくれるとすぐに、パーシウスはこの上もなく慇懃《いんぎん》な態度で、その眼を彼等のうちの一人の額にある空《から》っぽの眼窩《めのあな》へはめ込んで、彼等の親切を謝し、彼等に別れを告げました。しかしパーシウスが聞えないほどの遠さまで行かないうちに、彼等はまた新しく喧嘩を始めました。何故かというと、彼等とパーシウスとの間に騒ぎが持上った時に、もう番のすんでいたスケヤクロウに、彼は何の気もなく眼玉をやってしまったからなのでした。
 どうもこの三人の白髪婆さん達は、いつもよくこうした喧嘩をして、お互の平和をみだしていたらしいのです。彼等はお互に誰が欠けても困るわけですし、それに離れられない仲間として生れて来たことは明らかなのですから、これは尚更困ったことでした。一般的に言って、姉妹《しまい》であれ兄弟であれ、年寄であれ若い人達であれ、例えば仲間に眼が一つしかないというような場合には、お互に辛抱するようにして、みんなで一度に覗こうなどと意地を張らないようにすることを、僕は世の人達に忠告しておきたいと思います。
 一方その間に、クイックシルヴァとパーシウスとは、ニンフを見つけようとして、一生けんめいに道を急いでいました。彼等はおばあさん達から大変詳しく教わっていましたので、間もなくニンフ達を見つけました。会って見ると、ニンフ達はナイトメヤやシェイクヂョイントやスケヤクロウなどとは、大変違った人達だということが分りました。というのは、彼等はおばあさん連ではなく、若い、美しい女達で、姉妹仲間に眼が一つというようなこともなく、めいめいとてもぱっちりとした自分の眼を二つずつ有《も》っていて、大変やさしくパーシウスを見たからです。彼等はクイックシルヴァとは知合いのようでした。そしてクイックシルヴァがパーシウスの引受けた冒険の話をすると、彼等は自分達が預っている大事な品々をパーシウスに渡すについても、少しも面倒なことは言いませんでした。第一に彼等は、鹿皮で出来ていて、変った縫取りをした、小さな財布のような物を取り出して来て、パーシウスに必ずそれを大切にするように言いました。これが魔法の袋でした。次に、ニンフ達は、踵に一対の可愛い小さな翼《はね》のついた短靴みたいな、スリッパみたな、草鞋《サンダル》みたいな物を取り出しました。
『パーシウス、履《は》いてごらん、』とクイックシルヴァが言いました。『これから先の道中、君はいくらでも望み通り足が軽くなるだろう。』
 そこでパーシウスは、他の方を彼の傍の地面においたまま、一方のスリッパを履きにかかりました。とこが、出抜《だしぬけ》に地面においた方のスリッパが、翼をひろげて、地上から舞上りました。そして、もしもクイックシルヴァが跳び上って、うまくそれを空中でつかまえなかったならば、恐らくどこかへ飛んで行ってしまったかも知れません。
『もっと気をつけたまえ、』彼はそれをパーシウスに返してやりながら言いました。『空高
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