っと手を動かすだけでペガッサスを意のままにすることが出来、彼の声に従うように仕込んでしまった時、いよいよ、そのあぶない冒険にとりかかろうと決心しました。
 そこで、明け方目をさますとすぐに、彼はペガッサスを起すために、その耳をつねりました。ペガッサスはすぐに跳ね起きて、高く五百メートルばかりも飛び上って、すっかり目をさましているから、どんな旅にでもすぐ出かけられるということを見せるつもりで、山の頂《いただき》のまわりを大きく輪をかいて飛びました。こうしてちょっと飛んで見せる間中、彼は大きな、元気な、響のいい声でいなないて、おしまいに、雀が小枝に飛びうつる時でもそうは行くまいと思われるほど軽々《かるがる》と、ビレラフォンの傍におりて来ました。
『うまいぞ、ペガッサス! うまいぞ、わが天馬!』とビレラフォンは、やさしくその馬の頸を撫でながら叫びました。『さあ、僕の速い、美しい友よ、僕達は朝飯を食べなくちゃ。今日僕達はおそろしいカイミアラと闘《たたか》うんだからね。』
 彼等が朝飯をたべて、ヒポクリーニという泉のきれいな水を飲むと、すぐにペガッサスは自分からすすんで頭をさしのべて、彼の主人に馬勒をかけさせました。それから、盛んにはしゃいで、跳ねたり、空中を飛びまわったりして、出発を待ちかねているところを見せました。一方ビレラフォンは、剣を腰に下げたり、盾を頸からつるしたりして、戦いの用意をしていました。用意がすっかり出来た時、ビレラフォンは馬上の人となりました。そして、遠くへ出かけようとする時いつも彼がやる通りに、自分の進んで行く道がよく分るように、まっすぐに五マイルほど上って行きました。彼はそれから、ペガッサスの頭を東の方に向けて、リシアをさして飛びました。飛んで行くうちに、彼等は一羽の鷲に追いついて、それが彼等をよけることも出来ないうちに、すぐ近くまで行ったので、ビレラフォンは手を出しさえすれば、わけなくその脚をつかむことが出来たでしょう。こんな速さで、どんどん急いだので、彼等が深い、木の繁った谷のあるリシアの高い山々を見たのは、まだ午前中も早いうちのことでした。ビレラフォンが聞いて来たことが本当なら、おそろしいカイミアラが住処《すみか》としているのは、それらの凄《すご》いような谷の一つでした。
 目的地ももうすぐ近くなったので、ペガッサスはビレラフォンを乗せたまま、だんだんおりて行きました。そして山の頂《いただき》の上にうかぶ雲を利用して、身をかくしました。雲の上について飛びながら、その端からのぞいて、ビレラフォンはかなりはっきりと、リシアの山の多い部分を見渡すことが出来、また蔭になった方々《ほうぼう》の谷の中も一度に見ることが出来ました。最初は別に変ったものは何も見えませんでした。それは荒涼とした、未開の、岩ばかりの、高い切立ったような山つづきの土地でした。その国のもっと平坦な部分には、焼かれた家の跡があり、牧野《ぼくや》には、そこで草をたべていた家畜の死骸が、あちこちにごろごろしていました。
『カイミアラがこんな害をしたものに違いない、』とビレラフォンは考えました。『しかしその怪物は一体どこにいるんだろう?』
 僕がさっき言ったように、最初見た時には、切立ったような高い山の間にある、どの谷間にも峡谷にも、別に目立ったものは何も見つかりませんでした。全くなんにもありません。ただ、たしかに、洞穴《ほらあな》の口みたいなところから湧き出して、しぶしぶと大気の中に立ち昇る三すじの黒い煙があるにはありましたが。山の頂《いただき》へ届くまでに、これらの巻くようにして昇って来る煙は、まじり合って一つになりました。その洞穴《ほらあな》は、ペガッサスとその乗り手の直下、約千フィートほどのところにありました。重そうに立ち昇って来るその煙は、いやな、硫黄臭い、息のつまりそうな臭《にお》いがして、ペガッサスは鼻を鳴らし、ビレラフォンはくさめをしました。それに、いつもこの上なくきれいな空気ばかり吸いなれているペガッサスにとっては、あまり気持が悪かったので、彼は翼をあおって、そのいやな煙の辺から半マイルも飛びのきました。
 しかし、あとを振り返って見て、ビレラフォンは何か目についたとみえて、まず手綱をしぼり、つづいてぐるっとペガッサスの向きを変えました。彼が合図をすると、ペガッサスはそれを解して、ゆっくりと空中を舞下って、とうとう彼の蹄《ひづめ》が谷底の岩から人間の高さほどもないところまでおりて行きました。前方、石を投げたら届くほどのところに、三すじの巻き昇る煙を吹いている洞穴《ほらあな》の口がありました。そして、そのほかに、ビレラフォンはそこに何を見たでしょう?
 その洞穴《ほらあな》の中には、奇妙な、おそろしい動物が、からだを丸くして、ごちゃごち
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