、こんこんと湧き出して、きらきらと光りながら丘を流れ下りていると、ビレラフォンという立派な青年がその水際《みずぎわ》に近づいて来ました。彼はその手に、光りかがやく宝石で飾って、金のくつわをつけた馬勒《ばろく》を持っていました。その泉のそばには、一人のおじいさんと、中年の男と、小さな男の子と、それからまた、瓶《かめ》で水を汲んでいる娘とがいましたが、それを見ると、彼は立止まって、水を一杯御馳走して下さいと頼みました。
『これは大変おいしい水ですね、』彼はその娘から瓶を借りて水を飲んでから、それをすすいで、水を一杯入れながら言いました。『この泉に何か名があるかどうか、僕に教えてくれませんか?』
『名はございます。ピリーニの泉といって、』と娘は答えて、それからつけ加えて言いました、『このきれいな泉は、もとは美しい女でしたが、彼女の息子が女猟人ダイアナの矢に当って死んだ時、その女が溶けてすっかり涙となってしまったのだと、私のおばあさまが申しておりました。ですから、あなたがそれほどつめたくておいしいとお思いになるこの水も、実はその可哀そうな母親の心の悲しみなんです!』
『どくどくと噴《ふ》き出して、蔭から日向《ひなた》へと嬉しそうに踊って行くように流れるこんなにきれいな泉が、その中に一滴の涙でも含んでいようなんて、僕は夢にも思わなかったなあ!』見知らぬ青年は言いました、『それでつまり、これがピリーニの泉なんですね? きれいな娘さん、この泉の名を教えて下さって、どうもありがとう。僕は遠い国から、実はここをたずねて来たんです。』
この泉の水を飲ませるために牝牛をつれて来ていた中年の田舎者が、若いビレラフォンと彼が手に持っている立派な馬勒とを、じっと見つめました。
『お前さんの土地じゃ、川の水が減ってしまったんだね、にいさん、』彼は言いました、『こんなに遠くまで、ピリーニの泉を見つけるだけのことで、やって来なさったところを見るとね。しかし、一体、お前さんは馬に逃げられなさったかね? お前さん、手に馬勒を持っていなさるじゃないか。それも二列に、光った宝石のついた、きれいな品だ。もしも馬が、その馬勒みたいに立派なものなら、それに逃げられたお前さんは、随分気の毒な方だ。』
『馬なんかなくしゃしませんよ、』ビレラフォンはにっこり笑って言いました。『しかし、僕はちょうど、大変名高い馬を捜しているところなんです。かしこい人達が僕に教えてくれたところによると、その馬が、何処かにいるとすれば、この辺にちがいないというのです。翼のある馬ペガッサスが、あなた方の祖先の時代によくこの辺にあらわれたように、今でもやはりやって来るかどうか、御存じですか?』
しかし、これを聞くと、その田舎の人は笑い出しました。
君達のうちには、多分、このペガッサスというのは、美しい銀色の翼をした、真白な駿馬《しゅんめ》で、大抵はヘリコン山の頂《いただき》で暮らしているのだということを聞いた人があるでしょう。それは空中を飛ぶ時、雲の中までも舞上るほどのどんな鷲にも負けないくらいに、荒く、速く、身軽でした。世の中に、これほどのものは、ほかにありませんでした。それは仲間もなく、またそれに乗ったり、馬勒をかけたりして、主人となった人もまだありませんでした。そして、長年の間、それはひとりきりで、幸福に暮らしていました。
おう、翼のある馬になったら、どんなにすばらしいでしょう! ペガッサスは事実、夜は高い山の頂《いただき》に眠り、昼間は大方、空中を飛び廻っていて、ほとんど地上のものとは思えませんでした。それが人々の頭上高く、銀色の翼に陽をうけて飛んでいるのを見ると、それは空のものだという気がしたでしょうし、また少し低く降りすぎた時には、地上の霧や雲にふみ迷って、帰りの道を捜しているのだと思われたことでしょう。それが白く光った羊の毛のような雲のまん中へ飛び込んで行って、ちょっとの間その中に姿を消したかと思うと、今度は反対の側から飛び出して来るのを見ていると、実にきれいでした。また、陰気な雨風になって、空が一面の灰色の雲におおわれている時、この翼のある馬がまっすぐに雲を突き抜けて下りて来て、そのあとから雲の上の嬉しい光がさすようなことが時々ありました。次の瞬間には、もっとも、ペガッサスもその嬉しい光も一しょに、消え去ってしまうのでしたが。しかし、運よくこの不思議な光景を見た人は誰でも、その後一日中、嵐のつづいている間は、愉快な気持になりました。
夏の時分、この上もない上天気の日には、ペガッサスはよく地上におりて来て、その銀色の翼をたたんで、気晴らしに、丘や谷を越えて、風のような速さで駆けることがありました。ほかのどこでよりも、ピリーニの泉の近くで、おいしい水を飲んだり、岸のやわらかい草の上に
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