れば、わしは若い時分に、いつも、そんな馬がいるものと思っていたし、ほかの者もみんなそう思っていましたよ。しかし今では、どう考えていいやらちょっと分らないし、第一、翼のある馬のことなんか、あまり考えもしませんよ。もしもわしがそれを見たことがあったにしても、ずっとずっと前のことだし、それに、本当のことをいうと、実際に見たのかどうかも怪《あや》しいんです。尤も、或る日、まだ極《ご》く若い頃、この泉の岸のまわりに、いくつかの蹄《ひづめ》の跡を見たことは覚えていますよ。それも、ペガッサスの蹄の跡かも知れないし、またほかの馬の蹄の跡かも知れませんがね。』
『そして、美しい娘さん、あなたはペガッサスを見たことはありませんか?』水瓶を頭にのせて、彼等の話を傍で聞いていた娘に、ビレラフォンは尋ねました。『もしも誰か見ることが出来るものとすれば、ぱっちりとした眼をしているあなたが、きっとペガッサスを見そうなものですがねえ。』
『私、いつかペガッサスを見たように思いました、』その娘は、にっこり笑って頬を染めながら答えました。『それはペガッサスだったか、それとも大きな白い鳥だったか知りませんが、とにかくずうっと上の方を飛んでいました。それからまた、別な時に、瓶を持ってこの泉へ来ると、馬のいななきが聞えました。おう、それはどんなに元気な、響のいい声だったでしょう! それを聞いて、私の心は喜びにおどり上りました。そのくせ、私はびっくりしてしまって、瓶に水を汲みもしないで、家へ逃げて帰りました。』
『それはほんとに残念でしたね!』ビレラフォンは言いました。
それから彼は子供の方に向きました。子供がいたことは、話のはじめにもちょっと言いましたが、彼は子供がよその人を見る時によくやるように、赤い口を大きくあけて、じっとビレラフォンを見つめていました。
『ええ、坊や、』と、彼の巻毛の一つを冗談に引張りながら、ビレラフォンは言いました、『君は翼の生えた馬を幾度も見たんじゃないかね?』
『見たよ、』と、待ちかまえていたように、子供は答えました。『僕は昨日もそれを見たし、その前にだって幾度も見たよ。』
『君はなかなかいい子だ!』ビレラフォンは彼を近く引きよせながら言いました。『さあ、その話をすっかり聞かしてくれたまえ。』
『あのう、僕ねえ、』子供は答えました、『泉でおもちゃの舟を走らしたり、底からきれいな
前へ
次へ
全154ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ホーソーン ナサニエル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング