とあし》が十マイルか十五マイルだ。だから君の肩が痛くなり出さないうちに、あの庭へ行って、また帰って来るよ。』
『それじゃ、まあ、』ハーキュリーズは答えました、『僕はあの、君のうしろの山に登って、君の荷物を持っててあげよう。』
 実際のところ、ハーキュリーズは親切な心の持主だったので、こうして一度散歩に出る機会をあたえてやれば、巨人に対して大変いいことをしてやることにもなると考えました。その上また、単に百の頭の有《あ》る竜を退治るというだけの平凡なことよりも、空を持上げたといって自慢することが出来れば、自分自身の名誉のためには一層たしになるだろうと思いました。そこで、それ以上何も言わないで、空はアトラスの肩から、ずるずるっと、ハーキュリーズの肩へ移されました。
 それが無事にすむと、巨人はまず第一に、のびをしました。その時の彼がどんなに大した見ものだったかは、君達も想像出来るでしょう。次に、彼は一方の足を、そのまわりに生えた森から、ゆっくりと上げました。それからまた、他の足を上げました。それから、自由になったうれしさに、突然、跳ねまわったり、飛び上ったり、踊ったりし始めました。空中どれくらい高く飛び上るものやら見当もつかない位で、また不器用にどんと落ちて来ると、大地がぶるぶるっと震えました。それから――ほう! ほう! ほう!――と笑い出しましたが、それが、あちこちの山々にこだまして、雷のように鳴りひびくので、まるで巨人にそれだけの兄弟があって、みんなで喜んでいるのかと思われるくらいでした。彼の嬉しさが少し静まった時、彼は海の中へ足を踏み入れました。最初の一足《ひとあし》で十マイル、それで脛《すね》の半分どころの深さでした。二足《ふたあし》目も十マイル、その時には、水がちょうど彼の膝の上まで来ました。それから三足《みあし》目で、もう十マイル、すると彼は大方腰の辺までつかりました。これが海の一番深いところでした。
 ハーキュリーズは、巨人がまだまだ向うへ進んで行くのをじっと見ていました。というのは、この大きな人間の恰好をしたものが、三十マイル以上も向うの方で、腰まで海の中へはいって、それでもまだ上半身が、まるで遠くの山のように高く、かすんで、青く、見えているのは、実にあきれるばかりだったからです。その大きな姿は、だんだんぼんやりして来て、おしまいには、すっかり見えなくなっ
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