い場所がありました。匂いのいいうまごやしが沢山まじった、毛氈を敷いたような青草が、その崖と海との狭い間を蔽うていました。そして、ハーキュリーズがそこに見つけた人こそ、ぐっすりと眠っている一人の老人でした!
しかし、それは実際、間違いなく老人だったでしょうか? たしかに、ちょっと見ると、それはいかにも老人のようでした。しかしもっとよく見ると、それはむしろ、何か海に棲んでいる動物みたいでした。というのは、彼の脚や腕には、魚にあるようなうろこがありました。彼は足や手に、家鴨みたいなみずかきがついていました。そして彼のあごひげは、緑色をしていて、普通のあごひげというよりも、一束の海藻のように見えました。君達は船材の切端《きれはし》が、長いあいだ波にもまれて、藤壺が一杯くっついて、とうとうしまいに、深い深い海の底から打上げられたのかと思われるような風になって、岸に漂着しているのを見たことがありますか? とにかく、その老人を見ていると、ちょうどそういったような、波にもまれた材木を思わせるものがありました。しかしハーキュリーズは、その不思議な姿を見るとすぐに、これこそ彼に道を教えてくれる筈の「老人《オウルド・ワン》」にちがいないと思いました。
そうです。これこそあの親切な娘達が彼に話して聞かせた「海の老人」にほかならなかったのでした。ちょうどうまく、その老人が眠っているところを見つけるなんて、自分はよほど運がいいのだと喜びながら、ハーキュリーズはしのび足で彼の方へ近づいて行って、彼の腕と脚とをつかまえました。
『ヘスペリディーズの庭へは、どう行けばいいか、教えてくれ、』老人がまだよく目もさまさないうちから、彼はそう叫びました。
君達にもたやすく想像がつく通り、「老人《オウルド・ワン》」はびっくりして目をさましました。しかし、彼がびっくりしたよりも、次の瞬間には、ハーキュリーズの方がもっとびっくりした位でした。というのは、急に「老人《オウルド・ワン》」が、彼のつかまえている手から消えたように思うと、いつのまにか彼は牡鹿の前足と後足とをつかまえているのでした! それでも彼は、しっかりとつかまえて放しませんでした。すると牡鹿が消えて、今度は海鳥になって、ハーキュリーズがその翼と足とをつかんでいると、ばたばたとあばれて啼き立てました! しかし、鳥は逃げ出すことが出来ませんでした。す
前へ
次へ
全154ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ホーソーン ナサニエル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング