影みたいなものでしたが、日がたつにつれて、だんだん本物になって来て、そのうちには、とうとうエピミーシウスとパンドーラの家が、ほかの子供達の家にくらべて何だか陰気になって来ました。
『一体あの箱は何処から来たんでしょう?』と、始終パンドーラは独りごとにも言い、またエピミーシウスにも訊《き》くのでした。『そしてまた、一体あの中には何がはいっているんでしょう?』
『いつもこの箱のことばかり言ってるんだねえ!』とエピミーシウスは、とうとう言いました。というのは、彼はもうこの話には、すっかりあきあきしていたからでした。『何かほかの話をしてほしいなあ、パンドーラ。さあ、熟した無花果《いちじゅく》でも取りに行って、木の下で夕飯にそれを食べようよ。そして、僕は誰もたべたことがないくらい甘くて、お汁のたっぷりある実《み》のなる葡萄の木も知ってるんだ。』
『いつも葡萄や無花果《いちじゅく》のことばかり言ってるわ!』と、パンドーラはすねたように叫びました。
『それじゃ、いいよ、』と、その時分のたいていの子供達と同じように、大変気立てのいい子だったエピミーシウスは言いました、『そとへ出て、お友達と面白く遊ぼうよ。』
『あたし、もう面白いことなんか厭きちゃった。そしてもしも、この上面白いことがちっともなくなってもかまわないわ!』と、だだっ児のパンドーラは答えました。『それにあたし、面白いことなんか、ちっともないんだもの。このいやな箱がいけないんだわ! あたしもう、しょっちゅうそのことばかり気にかかってるの。その中に何がはいってるか、どうしても聞きたいわ。』
『もう五十遍もくりかえして言った通り、僕知らないんだよ!』と、エピミーシウスも、少し腹を立てて答えました。『知らないのに、中に何があるか、言えるわけはないじゃないか?』
『あけたらいいでしょう、』パンドーラはエピミーシウスを横目で見ながら言いました。『そしたら、あたし達で見られるじゃないの。』
『パンドーラ、君はなんてことを考えてるんだ?』エピミーシウスは叫びました。
 そして彼が、決して開けないということにして彼に預けられた箱をのぞいて見るなんて、如何にもおそろしいといったような顔をしたので、パンドーラも、もうこの上そんなことは言い出さない方がいいと思いました。しかし、それでもやはり、彼女はその箱のことを考えたり、言ったりせずにはいられ
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