生来《うまれつき》の美しさ、優《しと》やかさ、艶《すこ》やかさ、それらがやがて地位なり、財産というものなのだ。それを他にしてなにがなる? それさえあれば下町の娘も高貴の令嬢もあまり変わりはない――道理《もっとも》なことである。
 彼女は自分が充分に栄誉栄華をする資格に生まれてきたと念うと、熟々《つくづく》今の生涯が嫌になる、彼女は一日もそれを思い煩わぬ日とてはなかった。住居《すまい》の見すぼらしさ、壁は剥げている、椅子は壊れかかっている、窓掛けは汚れくさっている、このようなことは彼女と同じ境遇にいる女のあまり気にも留めなかったことであろう。けれど彼女はもうちょっとしたことにも気をエラエラ[#「エラエラ」に傍点]さして、我れと我が身を苦しめていた。しかし、時にはプレトン辺りの農夫の妻が骨身を惜まず真っ黒になって働いている光景《ありさま》などを思い浮かべて、自分が果敢《はか》ない空想の徒なことを恥ずかしくも浅ましいことに思わないでもなかった。けれどそれもしばし、彼女はやがてまた元の夢に返った。静かな玄関の座敷、周囲には東洋で製作《で》きた炎えたつような美しい帷張《とばり》がかかっている。高
前へ 次へ
全19ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
モーパッサン ギ・ド の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング