かと思いました。取るものも取り敢えず、あわてて着物を著《き》ると、私は云われた場所まで駈けて行ったのです。私は駈けました、力つきて倒れてしまうほど駈けました。その子の小さな学帽が泥だらけになって地面に落ちていました。その晩は夜どおし雨が降っていたのです。私は目をあげて上を見ました。と、木の葉のなかで何か揺れているものがあります。風があったのです。かなり強く風が吹いていたのです。
 私はそれからどうしたのか、もう覚えがありません。私はきゃッと叫んでから、おそらく気を失って倒れてしまったに違いありません。それから、館へ駈けて行ったのでしょう。気がついた時には、私は自分の寝室に身を横たえていたのです。私の枕もとには母がおりました。
 私はそうした事がすべて、怖ろしい精神錯乱のうちに見た悪夢だったのだと思ったのです。そこで私は口ごもりながら云いました。
「あ、あ、あの子、ゴントランは?――」
 けれども返事はありませんでした。夢ではなくて、やッぱり事実だったのです。
 私はその少年の変り果てた姿をもう一度見ようとはしませんでした。ただ、その子の金色の頭髪のながい束を一つ貰ったのです。そ、それが
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