ンタに薬を盛った嫌疑があります。同夜雨が降り出してから屋外にいたことも争われぬ事実です。兇器としては太いステッキを持っていました。そして最後に、死人が彼の襟飾《ネクタイ》を掴んでいました。これだけ材料があれば、十分陪審員たちを承伏させることが出来るに違いありません」
ホームズは首を傾げて、
「上手な弁護士にかかったらそれくらいのことは難なく論破されてしまうでしょうね。シムソンはなぜ白銀を厩舎の外へつれ出さなければならなかったんですか? 傷つけて競馬に出られなくしたければ厩舎の中でも出来ることじゃないですか? 捕えられた時、厩舎の合鍵を持っていましたか? 阿片末を売り渡したのはどこの薬種商です? とりわけ土地不案内なシムソンが、馬のような大きなものを、しかもこうした有名な馬をどこへかくせるというんです? 上手な弁護士ならこれ等の点を捕えて、巧みに論破してしまうでしょう。シムソンは女中に頼んで厩舎に届けさせようとした紙片《かみきれ》を何んだといってるんですか?」
「十ポンドの紙幣だったといっています。そういえばポケットの中へ十ポンドの紙幣を一枚持っていました。しかし、あなたの仰しゃった反駁はそう有力なものとも思われませんね。シムソンは土地不案内の者じゃないです。夏時分二度、タヴィストックに泊っていたことがあります。阿片はおそらくロンドンから持って来たものでしょう。合鍵は目的を達した上は、どこへかすててしまったものと考えられます。馬はどこか荒地《あれち》の中の凹みか、廃坑の中に殺されているかもしれません」
「襟飾《ネクタイ》のことはどう弁明していますか?」
「自分のものには相違ないけれど、遺失したのだといっています。しかし、シムソンが馬をつれ出したのだという新らしい事実が一つ発見されています」
ホームズは急に聞耳を立てた。「[#「「」は底本では一文後にある]兇行のあった月曜の夜。兇行の演じられた場所から一哩と離れないところでジプシーの一群がキャンプした跡を発見しました。月曜日に彼等は天幕を張って、火曜日に出発してしまったのです。そこで、ジプシーとシムソンとの間にある了解があったものとすると、シムソンはジプシーのいるところまで馬をつれて行く途中をストレーカに追いつかれた、で、馬はいまジプシー達の手にあるのだと考えられなくもありますまい?」
「たしかに有り得ないことではあ
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