に復讐心が強いかと云うことをよく知っていたんで、出来るだけ長く、誰からも自分の正体をかくしておきたかったんでしょう。――それに彼のその秘密は実際破廉恥なものですからね、それを漏らす元気はなかったんですよ。――しかしこうして彼が殺ろされてみると、彼は英国の法律によって保護されて生きていた人間なんですから、よし一度はその保護の盾を破られて殺されたとは云え、英国の正義の剣は、彼のために正当な仇を報じてやらなくてはなりますまい、ねえ探偵」
以上の話が、ブルック・ストリートの医者とその家の入院患者とに関係した事件のあらましである。――その夜から三人の殺人犯は、官憲によって探索されたが、なかなかつかまらなかった。が、やがて、彼等がノラ・クリーナ号と云うボロボロの船の乗客の間にまじって、スコットランドの波止場に上陸した時、とうとう捕えられてしまった。その船はつい二三年|前《ぜん》、オポルトウの北方数|哩《まいる》のポルトガルの沖合いで沈んでしまった。――それから例の案内係のボーイは、証拠不充分と云うので放免された。すなわちこれがいわゆる『ブルック・ストリートの秘密』として有名な事件のあらましなのであって、今日までまだ公に発表されたことのないものである。
底本:「世界探偵小説全集 第三卷 シヤーロツク・ホームズの記憶」平凡社
1930(昭和5)年2月5日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「恰も→あたかも 貴方→あなた 或る→ある 如何→いか 所謂→いわゆる 於て→おいて 恐らく→おそらく 彼→か 返って→かえって か知ら→かしら 難い→がたい かも知れ→かもしれ 位→くらい、ぐらい 極く→ごく 即ち→すなわち 是非→ぜひ その癖→そのくせ 大分→だいぶ 沢山→たくさん 只今→ただいま 忽ち→たちまち 度→たび 多分→たぶん 給え→たまえ 丁度→ちょうど て見→てみ で見→でみ 疾うに→とうに 所が→ところが 所で→ところで 尚→なお 乍ら→ながら 筈→はず 程→ほど 殆ど→ほとんど 亦→また 迄→まで 勿論→もちろん 余程→よほど」
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
※底本中、混在している「ペルシー」「ペルシイ」、「ロシア」「ロシヤ
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