ことだけを、お話するつもりでしたのに、――カラザースさんは、やや暗い沈んだ感じの、きれいに顔を剃った、口数の少ない人でした。そして物腰はとても上品で、笑う時はとても気持のいい人でした。そして父の死後のことについて、親切に訊ねて下さって、私たちが貧しいと云うことを知りましたら、その十になるお嬢さんに、音楽を教えに来てくれと云うのでした。それで私は、母の側《そば》を離れるのはいやだと申しましたら、毎土曜日には、母のところに帰るように、そして給料は、年に百|磅《ポンド》出してくれると云うことでした。これは申すまでもなく私にとっては、とても素晴らしい給料でございますからね。それで私はそれをお受けして、ファーナムから六|哩《まいる》ばかり離れた、チルターン・グランジに行きました。カラザースさんは独身男でしたが、しかし、家政婦のディクソンと云う、もう年配の、なかなかしっかりした婦人と婚約が出来ていました。小供は大層|可愛《かあい》い子で、もう何もかも面白くゆきそうでした。カラザースさんは、大へん親切で、音楽もよく解り、夕《ゆうべ》の集いはとても愉快でした。そして土曜日土曜日には、私は町の方の母のと
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