すれば、あの娘さんは一列車早く発つつもりだったんだね。ワトソン君、俺たちが娘さんに出逢う前に、あのチァーリントンの森にさしかかってしまったら大変なことになるよ」
私たちが上り坂を越してからは、もうその乗り物の姿は見えなかった。しかし私たちはどんどん道を急いだが、私の元来の運動不足の職業が、今はしみじみと身体に答えて、いや応なしに私は、ホームズからは遅れてしまった。しかしホームズは少しも弱る様子がなかった。日頃練成していた精力が、全く驚くばかりであった。彼の跳ね返るような歩調は、決して衰えなかったが、私から百|碼《ヤード》ばかりも先んじて行った彼は、ふと立ち止まった。そして彼が手を上げてまわすのを見たが、それは悲しみと絶望の相図であった。と、――見る中《うち》に、空《から》な二輪馬車が、手綱を引きずりながら、カーブを曲ってガタガタと音させながら、私たちの方に駈けて来るのであった。
「遅かった、ワトソン君、遅かった!」
ホームズは叫んだ。私は喘ぎながら彼の側《そば》にかけ寄った。
「もう一つ早い汽車を考えなかったなんて、僕は何と云ううっかりしたことをしたものであろう! 誘拐されたんだ。
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