の事件の全部であったが、何しろアデイア青年にしては、惨殺を受けるような敵などがあるようにも思われないものであり、また室内の金や貴重品と云ったようなものにも、全然手を触れられた形跡もないので、事件は全く謎から謎へと、皆目見当がつかなくなるのであった。
私は文字通り終日、この事件に対して、あらゆる智慧を絞って考えて、大体において辻褄の合う、一通りの条理ある解釈を見出そうとし、かつて私の哀れな友人の云った、「凡《すべ》ての考査の出発点となる、最も抵抗の少ない一点」の発見に努力したが、正直のところ私は、ほとんど何物も進め得なかった。私は夕刻になってから、公園を逍遥しながら横切って、午後六時頃には、私はレーヌ公園の外れである、オックスフォード街に現われていた。そこでは一群の弥次馬がペーブメントの上から一つの窓を見つめていたが、この人達は私が見に来た一軒の家を指さしてくれた。一人の脊の高い痩せた色眼鏡の男が、――私はてっきり私服の刑事巡査に相違ないと思ったが、――いろいろと自分の観察を云っているのに、人々は群がり集《あつま》って傾聴していた。私も出来るだけその近くに進んでみたが、しかしその観察は
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