たら、あるいはそれに伝って上ることも出来るかもしれないと思われる、水管と云ったようなものさえも無かった。私はいよいよ考察に窮してケンシントンの方に足を向け直した。そして私が書斎に入って、五分も経つか経たない中に、女中が面会人があると云って来たのであった。
 その来客と云うのは、誰あろう、――私も驚いたことには、私がまだ慇懃を通じない、先の珍本蒐集家で、鋭い凋《くぼ》んだ顔が、白髪の中から覗き出て、右腕には少なくとも一|打《ダース》はあろうと思われるほどの、貴重な書籍をかかえていた。
「いや、私に推参されて、吃驚なされたでしょう」
 その老人は、全くききなれない嗄《しわが》れた声で云って来た。
 私は、全くその通りと答えた。
「いや、全く御無理もありません。ところがこう見えても私にも、良心と云うものがあります。私はあなたがこのお家にお入りになるのを見たので、跛《びっこ》を引きながら、あなたの後を追っかけて伺った次第です。と云うのは、先きほどの御親切な紳士に親しくお目にかかって、さっきの私の態度に、もし乱暴すぎたと思召されたところがあるなら、それは決して何も悪意のあったわけではなかったこと
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