られるのが恐ろしかったの。そしてあなたにお話するだけの勇気が持てなかったの。私はあなたと私の子供と、どちらかを選ばなければならなくなった時、私の弱さは私の可愛いい子供から私をそむかせて、あなたを選らばせてしまったんです。――三年の間《あいだ》私は彼女のあると云う事を、あなたには秘密にしていましたけれど、彼女が無事に育っていると云う事は乳母《うば》から聞いて知っておりました。けれどどうしても、一度だけ子供を見たくてたまらなくなりましたの。私はそんなことをしてはならないと思いましたが、やっぱり駄目でした。私は危険だと云うことを知ってはいましたけれど、たとえ二三週間の間だけでもいいから、子供を呼び寄せようと決心しました。私は乳母に百|磅《ポンド》送ってやりました。そしてこの離家《はなれや》のことを教えてやって、私と彼女と何の関係もない様な振りをして、ここにやって来させました。そうして昼間のうちは子供を家《いえ》の中に閉じ込めておいて彼女の小さな顔にも手にも覆いものをしておく様に云いつけたほど、用心深くさせました。それは、誰かが窓から彼女を見ても、隣りに黒ン坊の子供がいる等と云う噂を立てさせたくなかったからなんです。もし私がもっと悧巧《りこう》だったらそんなに用心深くはしなかったんでしょうが、私はあなたにこの事実を知られたくないと云う恐れで半分気がどうかしていたんですわ。――あの離家に誰か来たと初めて私に話して下さったのはあなたでしたわね。私朝まで待とうと思ったんですのよ。けれど昂奮してどうしても寝られなかったの。それで私、あなたの目を醒《さま》さない様にするにはどんなにむずかしいかと云う事はよく知っていましたけれど、とうとう抜け出したんですわ、ところがあなたは私の行くのを見ていらした。そしてそれが私達の事件のはじまりでした。――その翌日、私はあなたに私の秘密をきかれました。が、あなたはそれをしつこくおききになりませんでした。けれどそれから三日目のことです。あなたが表口《おもてぐち》から飛び込んで来られた時、やっとのことで乳母と子供とを裏口から逃がしたのは。――でも、今夜はとうとう何もかもあからさまになってしまいました。これから私たち――、私の子供と私とは、どんな風にでもなりますわ、それをおっしゃって下さい」
 彼女は両手をかたく握り合せて、彼女の夫の言葉を待った。
 二分
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