ノーブリーへお帰りになって、もう一度その窓を調べていただきたいんです。そしてもし確かに誰か中に住んでいるらしいことがお分かりになったら、あなた御自身で中へ這入っていくようなことはなさらないで、私の友人と私に電報を打って下さい。そうすれば私達は一時間以内にはそこへいって、大いそぎで事件を徹底的に解決してしまうことが出来るでしょう」
「もしまだ空家のままでしたら?」
「その時については、明日《みょうにち》、またあなたとよく相談しましょう。――じアさよなら。特に確実に根拠をつかんでしまうまでは充分慎重にやって下さい」
 そうして私の仲間は、グラント・マンロー氏をドアまで見送って帰って来ると、
「ワトソン君、こいつはちと厄介な事件らしいね。どうしたらいいだろう?」
 と云うのだった。
「悪い奴が一人いるね」
 私は答えた。
「そうだ。――脅喝《きょうかつ》している奴がいる。いないとなると僕の非常な思い違いになるんだが……」
「とすると脅喝《きょうかつ》している奴は何者だろう」
「無論、その離れ家の例の気持ちよく飾った寝室だけに住んでる、あの男の妻の肖像を暖炉棚の上に飾っとく男さ。――僕に云わせると、ワトソン君、窓に現れる例の蒼白い顔に目星をつけるべき何物かがあると思うんだ。それにしても事件の真相を誤ってはならないからね」
「で、君には対策があるのかい?」
「ああ、自分だけで考えてるのはあるんだが、事件が私の考えてる通りにいってくれないと困るんだ。――とにかくこの女の最初の夫と云うのが、その例の離れ家の中にいるんだよ」
「なぜそう思うんだい?」
「だって、今の亭主をその離れ家の中に入れまいとして、彼女が気違いのような騒ぎをしたと云うことについて、僕たちはどう説明したらいいだろう。僕が想像した所によると、事実はこうなんだよ。――この女はアメリカで結婚した。ところがその夫は、何かいやな性質を持っていたんだ。あるいは、何かいやな病にかかった、たとえば癩《らい》病とか痴呆症とか、そんなものになったと云ってもいい。彼女はたまらなくなって、亭主から逃げ出して、名前をかえて英国に帰って来たんだ。そして彼女が考えた通りに新しく生活をし直したんだ。――彼女は三年間の結婚生活をした、そして誰かの死亡証明書を彼女の今の夫に見せて、自分の位置が怪しくないことを信じさせたのだ。しかも彼女はその死亡証明
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