が、しかし何か私の妻を悩ましているものがあるとしたら、私は彼女を全財産を賭しても、保護してやりたいと思うのですが――」
古いイギリスっ児のこの人間は、単純で卒直で、目は大きく熱意のこもった、堂々たる風貌の紳士であった。彼がその妻に対する愛情と信実は、外部にまで溢れ出ていた。ホームズは全注意を集めて、この話を聞いていたが、この話が終ると、しばしの間は、静《じ》っと沈黙したまま思案に沈んだ。
「いや、キューピットさん、――」
彼はようやく口を開いた。
「これはやはり、あなたが直接に奥さんにお訊ねになって、あなたに対して秘《かく》されていたことを、話してもらうのが一番早道ではないかと思われますがね」
ヒルトン・キューピットはしかし、その大きな頭を振った。
「ホームズさん、約束はどこまでも約束ですからね。もしエルシーが、話していいと思うくらいでしたら、彼から話してくれるでしょう。そしてまたもし話したくないことでしたら、私は彼の女に対して強要はしたくはありません。しかしそれと離れても、私には私で取るべき道はあるはずです。そしてそれを私は大《おおい》にやろうと思うのです」
「いや、そう云うのでしたら、私も全力をつくして御相談に与《あずか》りましょう。まずお訊ねしますが、この頃からあなたの御近所に、新に来た者があるようなことはお聞きになりませんか?」
「いえ」
「大変閑静なところだろうと思われますが、新顔などが現われて、人々の噂に上るようなことがありますか?」
「えい、そうそうごく近所にありました。しかし私共の近所には、湯治場《とうじば》があるので、よく田舎者共が宿をとります」
「この象形文字は、たしかに意味がありましょう。もし全く出鱈目なものだとすれば、それはもうとても解釈が出来ませんが、しかしこれが組織的なものだとすれば、きっとどうにかして解くことが出来ますよ。しかし何しろこれはひどく短いもので、どうにも仕様が無いし、またあなたが持って来られた事柄も、はなはだ漠然としたことで、考査の基本にはなりませんからね。やはりこれはあなたが、一度ノーフォークにお帰りになって、注意深く監視をして、もう一度この踊り人の姿が現われた時に、正しく写し取った方がいいと思いますがね。先に窓硝子に画かれたものの写しを、見ることの出来ないのははなはだ遺憾ですが、いずれ近所に最近に現われた者に対して
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