自分たちのいる経緯を見、そしてどんなコースをとっていったらいいかを研究した。ベルド岬は私たちから北方五百マイルの所にあったし、アフリカの海岸は東方七百マイルの所にあったので、そのどっちへ行くべきかは充分考うべき問題だった。が、大体において、風が北に向けて吹いて来たので、シーラ・レオンに行くのが一番いいと思った。そうして私たちは船首をその方角にむけ直した。その時には、私たちの右舷、半マイルばかりのあなたに、例の船は既にその船体を没し去ろうとしていたのであった。が、ちょうどその時、私たちは不意に、その船から真黒な煙の立ちのぼるのを目にした。その煙はまるで天までとどく怪異な木のような恰好だった。そうして二三秒間のうちに雷のようなすさまじい響きが私たちの耳を襲った。つづいて間もなくその煙がうすれると、もうそこにはグロリア・スコットの影も形も残っていなかった。私たちは直ちに、再びボートをむけ直して、力一ぱい漕いで、グロリア・スコットの沈んだ海上にまで走っていった。そこにはまだ、断末魔の影をとどめて、波がうねっていた。
私たちがその地点まで来るには、かなり長い時間がかかったので、私たちは誰もすくうことは出来ないだろうと心配した。まさにその通りで、その辺には、一双の快走ボートや幾つもの笊《ざる》や円材の破片や、そんなものが波の間に間に浮き沈みしていて、生物の影は一つもなかった。私達は失望して帰ろうとした。とその時、私達は救いを呼んでいる人の声を耳にした。見ると遥か彼方に船の破片に抱きついて、浮んでいる一人の男があった。私達はその男をボートの中に引き上げてみると、それは、ハドソンと云う若い水夫であった。彼はひどく焼傷《やけど》をし、ひどく労《つか》れていたので、翌朝まで何事が起きたのか彼から聞くことは出来なかった。翌朝になって聞いてみると、その出来事は私達が船から去った後、プレンダーガストと、その手下達が、残った五人の捕縛者を打殺そうとして起きたことらしかった。まず二人の番兵は射殺されて、海にほうり出され、そうして三人の助手も同じ様にされた。そこで、プレンダーガストは船内に降りて行って、不幸な士官の咽喉《のど》をたたき切った。後に残ったのはただ一人第一助手だけであった。がその男は勇敢な、そして力の強い男だったので、プレンダーガストが血だらけのナイフを手に持って彼に近づいて行くのを見ると、彼は以前から出ようとしていた所の留置場を蹴破って、デッキをかけ抜けて後部の方にある監禁室に飛び込んだ。やがて大勢の囚人達が手に手にピストルを持って、彼をさがしながらだんだんおりて行くと、彼は手にマッチ箱を持って、口を開けた火薬箱の側にどっかり腰をかけていた。その火薬箱は船に積み込んだ百箇の中の一つで、彼は、もし彼が殺されそうになったらその中へ火を投げ込むぞと云っていた。そのすぐ後一分も立たないでその事件が持ち上った。ハドソンの想像で行くとそれは、その助手がマッチをほうり込んだのではなくて、四人の誰かが誤ってピストルを打ったためらしかった。がその原因はいずれであるにせよ、それがグロリア・スコットの最後であり、そして暴徒達の最後でもあった。
私の可愛いい子供よ。要するに私がまき込まれた所の恐ろしい事件と云うのはこんなわけなのだ。――私達はその翌日、ホトスパー号に救助された。その船はオーストラリヤにむけて航海中のもので、船長は私達が難船した旅客船の残存者であると云う言葉を難なく信じてくれた。運送船グロリア・スコット号は航海中、失われたと海軍省より発表され、その本当の運命については、何事も世の中には知れなかった。ホトスパー号は、それから、すばらしい航海を続けた後、シドニーに私達を上陸させてくれた。そこでエバンスも私も名前をかえて、共に鉱山に出かけて行った。そうして、あらゆる国から集《あつま》って来ている人々の間にまじって、私達は私達の過去を容易に葬り去ることが出来た。
それから後の話はもう話す必要はあるまい。私達はお金持ちになった。私達は旅行をした。私達はイギリスに金持ちの移民として帰って来た。そうして田舎に土地を買った。二十数年あまり、私達は平和な公共的な生涯を送った。そして私達はもはや私達の過去は永久に葬り去られたものと信じていた。――ところが突然に私を尋ねて来た、例の水夫を見て、それがあの時難破船の破片から救い上げた、その男であるとわかった時の、私の気持と云ったらどんなだったろう。彼は私達の弱身につけ込んで私達をおどかして暮して行こうとしていたのだ。今になればお前は、あの時私が彼と平和に暮して行こうとしていた理由を了解してくれるだろう。そうしてまた、私が感じていたおそろしさにも同情を持ってくれるだろう。今や彼は私から遠ざかって、彼のもう一人の犠牲者の所へ出かけて
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