行った。
そこでベドウスが暗号で「ハドソンが総べてを話した。慈悲深き神よ、我々の命を守らせたまえ」と、ブルブルした読みにくい字で書いてよこす様なことになったのだ。
[#ここで字下げ終わり]
これがその晩私が、トレボウの息子に読んできかせた遺書であった。ワトソン、僕は考えるんだが、これは実際ドラマチックな事件だったよ。その善良な息子はその事件のために、心を破られ、世の中から隠棲して、お茶作りになり、今では相応にやり出していると云う話だ。またその水夫とベドウスとについては、その後全く何にもきかない。二人共完全にどこかへ姿をかくしてしまったものらしい。ベドウスはその恐喝を警察へ訴《うったえ》もしなかったと見える。またハドソンがどこかへかくれてしまったと云うことから、警察ではハドソンがベドウスを殺して、どこかへ逃げたものと想像している。けれども僕の考えで行くと、事実はそれらとは正反対だと思うのだ。たぶん、絶望におち入り既に密告されることを覚悟したベドウスは、かえってハドソンに復讐をし、出来得るだけの金を懐にして、この国からどこかへ逃げて行ったと僕は考えるんだよ。――君、事件の真相と云うのはこんなわけなんだ。もしこんな事件にも君の研究の役に立つなら、この事件に現われた人々も、さぞかし満足だろうと思うよ。
底本:「世界探偵小説全集 第三卷 シヤーロツク・ホームズの記憶」平凡社
1930(昭和5)年2月5日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 恰も→あたかも 貴方→あなた 如何→いか 所謂→いわゆる 得様→得よう 於いて・於て→おいて 於ける→おける 恐らく→おそらく 可成・可なり→かなり か知ら→かしら かも知れ→かも知れ 位→くらい・ぐらい 極→ごく 此処→ここ 随分→ずいぶん 是非→ぜひ 其の→その それ所か→それどころか 沢山→たくさん 唯→ただ 忽ち→たちまち 多分→たぶん 丁度→ちょうど て居→てい て呉→てく て見→てみ て貰→てもら 疾うに→とうに 何処→どこ 所が→ところが どの道→どのみち 尚→なお 乍ら→ながら なる程→なるほど 筈→はず 程→ほど 殆ど→ほとんど 正に→まさに 先ず→まず 亦・又→また 迄→ま
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