マウスを出帆せる帆船グロリア・スコット号が、北緯[#「緯」は底本では「偉」]十五度二十分、西経[#「経」は底本では「径」]二十五度十四分の海上において、十二月の六日、壊滅するまでの航海中のある出来事。――裏書きしてある。そしてそれは手紙風に書き出されているんだ。
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――私の可愛い可愛い子供。今や、忍び寄りつつある不幸が、私のいくばくもない晩年を暗くし始めた。私は現在、私の心を一番痛めていることは、決して法律的な制裁を受ける恐怖でもなく、この地方における私の位置を失うことでもなく、また、私を知っているすべての人の目に、私の没落を見られるがためでもなく、ただ、私を愛し私を尊敬するより外には何も知らなかったお前を、恥ずかしさの余り顔を赤らめさせなくてはならない事だと云うことを、正直に嘘偽りでなく云うことが出来る。けれどもやがて私の頭上にかかっているこの危険が、本当に私の身に落ちて来たならば、お前はこの手紙を読んで、そしてありのままの私は、決してそんな破簾恥《はれんち》な男ではなかったことを知ってくれるだろう。がまたその反対に、もしすべてのことがうまく無事に過ぎ去るようだったにしても、――おお、全能の神様よ、願わくばかくあらんことを!――その時はその時で、この手紙を破らずにしまっておけば、やはりいつかはお前の手に落ちてお前に読んでもらえるだろう。そうしたら私はお前の愛にすがって懇願する、お前の懐かしいお母さんを思い出して、そしてまた私とお前との間の愛を思い出して、どうか私を許し、これを火にくべてしまって、もう二度と再びこんなことは考えないことにしようではないか。
私はよく知っている。お前にこんな手紙を読ませるくらいなら、私はとうに私の家庭から出て行くべきであったと云うことを。でなければ、――お前は私が気の弱い男であることを知っているだろう。――だまって死んでいってしまうほうがよかったのだと云うことを。けれどもいずれにしても、もう隠しているべき[#「いるべき」は底本では「いべき」]時ではないのだ。私は少しもかくすことなく正直に話そう。そして許しを乞おう。
私の可愛い子供よ。私の名前はトレヴォではないのだ。私は若い頃には、ジェームス・アーミテージ[#「アーミテージ」は底本では「アノミテージ」]と云ったのだ。こう云えばお前は三四週間前、お前の学校友達が、私の
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