に彼は命令を下すと、私は息もつかずにそれに従った。そのうちに、突然、彼は「さあ、おい、開け!」と叫んだ。そこで私は舵輪をぐっと風上に操った。するとヒスパニオーラ号は急速にぐるりと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って、低い樹の茂った岸に船首を向けて走り続けた。
 こういう操縦に興奮していたために、それまでは私が絶えずずいぶん油断なく舵手を警戒していたのが、幾分お留守になっていた。その時でさえ、私は、船が水底に触れるのを今か今かと待ちながら、やはり非常に面白がっていたので、自分の頭上に懸っている危難をすっかり忘れてしまい、右舷の舷牆の上から首を伸ばしながら、船首の前に広く拡がっている漣を見つめていたのである。それで、急に何だか不安になって、頭を振り向けなかったなら、私はひとたまりもなく殺されてしまったことであろう。恐らく、靴か何かのきしむ音が聞えたのか、彼の影の動くのが眼尻で見えたのかも知れない。それとも、恐らく、猫のような本能のためであったかも知れない。が、とにかく、私が振り返った時には、果して、ハンズが、右手に例の短剣を握って、私の方へすでに半分も近よっていたのであった。
 
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