でいる変な微笑さえなかったなら、私にはその上望むものは何一つなかったろうと思う。その微笑は、何か苦痛と衰弱とのようなものを含む微笑――窶《やつ》れた老人の微笑だった。が、その他に、私の働いているのを狡猾にじろじろじろじろと見守っている彼の表情には、ちょっぴり嘲弄のようなものが、どこか陰険なところが、あったのだ。

     第二十六章 イズレール・ハンズ

 風は、望み通りに吹いてくれて、今度は西風に変った。それで私たちはそれだけ易々と島の北東の角(註七三)から北浦の入口まで帆走することが出来た。ただ、投錨することは出来ないし、潮がもっと十分に満ちて来るまでは船を浜に乗り上げる訳にはゆかなかったので、私たちは無聊に苦しんだ。舵手《コクスン》は停船の仕方を私に教えてくれた。私はずいぶん何度もやってみてようやくうまくいった。それから二人とも黙ったまま坐って、また食事をした。
「船長《せんちょ》、」と彼はやがて、前と同じあの不愉快な微笑を浮べながら、言い出した。「ここに己の船仲間のオブライエンがいるがねえ。お前こいつを船から抛《ほう》り出してくれちゃどうだい。己は大概《てえげえ》はものを気に
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