、ほんのちょっとした偶然の機会で、その男と口を利くようになりました。聞いてみると、以前船乗をやっていた男で、今は居酒屋をやっているが、ブリストル中の船乗をみんな知っている、陸で健康を害したので、もう一度海へ出るために料理番《コック》としてのよい口を得たい、ということでした。彼の言うところでは、その朝は潮《しお》の香を嗅ぎにそこへやって来ていたのだそうです。
 小生は非常に感動して、――貴下ももし居られたらそうだったでしょう、――そして、ただ気の毒と思う情から、その場で彼を船の料理番に雇い入れました。のっぽのジョン・シルヴァーと彼は呼ばれています。そして脚が一本ありません。しかしこのことは推薦状だと小生は見倣《みな》しました。彼はかの不朽の名声あるホーク(註三一)の下で国家の為に働いてその片脚をなくしたのだからです。ところが彼には扶助料がついていないんだよ、リヴジー君。今は何という怪《け》しからん時代だろう!
 ところで、君、小生は料埋番を一人見つけただけだと思ったのだが、しかし実は小生の発見したのは全乗組員であったのです。シルヴァーと小生と二人で数日の中にこの上なしの倔強な老練な水夫の一団を集めたのです。――見た目はよくはないが、その面付《つらつき》から察すれは実に性根《しょうね》のしっかりした奴らです。これならきっと軍艦でも動かせるよ。
 のっぽのジョンは小生のすでに雇い入れておいた六七人の中から二人を除けさえしました。彼は、彼等が大事な冒険には恐れなければならぬあの海に慣れぬ奴らだということを、直ちに小生に見せてくれました。
 小生は、牡牛の如《ごと》くに食い、丸太の如くに眠って、素晴しく健康で元気です。しかし、わが老練な水夫君らが揚錨絞盤《キャプスタン》の周りを足踏み鳴らして歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る(註三二)のを聞くまでは、小生は一刻をも享楽しないでしょう。さあ、海へ! 宝なんぞはどうだっていい! 小生を夢中にさせているのは海の輝きだ。だから、リヴジー君、大急ぎでやって来給え。もし貴下が小生に敬意を持つならば、一時間も無駄にし給うな。
 ホーキンズ少年は、レッドルースを守護役にして、母親に会いにやって下さい。それから二人とも全速力でブリストルへよこして下さい。
[#地から3字上げ]ジョン・トゥリローニー。
 追伸。――書き洩したが、ブラ
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