う言って私の肩を実に親しそうにぽんと叩くと、彼はぴょっこぴょっこ歩き出して、下へ行った。
 スモレット船長と、大地主さんと、リヴジー先生とは、後甲板で一緒に話していた。私はその人たちに自分の聞いた話を知らせたくてたまらなかったけれども、おおっぴらにその人たちの中へ割り込む訳にもゆかなかった。それで何かもっともらしい口実を見つけ出そうと頭の中であれこれと思案している間に、リヴジー先生が私をそばへ呼びつけた。彼は自分のパイプを下に置いて来たのであるが、非常な煙草好きなので、私にそれを取りにやらせるつもりだったのだ。けれども、私は人に洩れ聞きされずに話せるくらいに彼に近づくや否や、すぐに言い出した。――「先生、お話があります。船長さんと大地主さんとを船室《ケビン》へつれて降りて下さい。それから何かにかこつけて私を呼んで下さい。私は恐しいことを聞いたんです。」
 医師はちょっと顔色を変えたが、次の瞬間には自分の心を制した。
「有難う、ジム。」と彼は大層大きな声で言い、「それだけ聞けばよかったのだ。」と私に何か尋ねたかのようにした。
 そう言うと彼はくるりと後へ向いてまた他の二人の仲間に加わった。三人はしばらく一緒に話していた。そして、だれ一人もぎょっとしもせず、声を高めもせず、驚いたような声さえ立てなかったけれども、リヴジー先生が私の頼みを伝えたことは十分明かだった。というのは、私の聞いた次のことは船長がジョーブ・アンダスンに命令を下したことで、全員が呼子で甲板に召集されたからである。
「諸君、」とスモレット船長が言った。「私は諸君に一|言《こと》言いたいことがある。向うに見えるあの島が我々の目当にして来た場所だ。トゥリローニーさんは、我々みんなの知っている通り、大層気前のよい方《かた》であるので、今しがた私に一二言お尋ねになり、私が船中の各員上下ともその義務を尽し、これ以上は望まれないくらいであるとお答が出来たところが、トゥリローニーさんと私と先生とは船室へ降りて諸君の[#「諸君の」に傍点]健康と幸運とを祝して杯を挙げることになり、諸君にも酒を振舞って私たちの[#「私たちの」に傍点]健康と幸運とを祝して飲んで貰うことになった。これについて私の思うところを言うことにすると、誠に結構なことであると思う。それで諸君も私と同様に思われるならば、そうして下すった紳士のために万歳を唱
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