船にいりゃあひとりでにわかるよ。」
「いや、実はね、」と若者が答えた。「ジョン、あんたと今の話をするまでは、あっしは今度の仕事は大して気が進まなかったんでさ。だがもうわかった。握手しましょう。」
「お前は強え男だ。おまけにはしっこい。」とシルヴァーは、樽ががたがた揺れるくらい心をこめて握手しながら、答えた。「それに分限紳士としちゃあ己の見たことのねえくれえ男前がいいしな。」
この時分には、彼等の遣っている言葉の意味が私にはわかりかけていた。「分限紳士」というのは明かに普通の海賊のことに違いなく、(註五一)私の窃《ぬす》み聞きしたこの小場面は、実直な船員の一人が堕落させられる最後の一幕だったのだ。――恐らくそれは船中に残っている最後の実直な者であったのだろう。しかし、この点では私は間もなく安堵させられる話を聞いたのだ。シルヴァーがちょっと口笛を吹くと、もう一人の男がぶらぶら歩いて来て二人のそばに坐った。
「ディックは話がついたよ。」とシルヴァーが言った。
「おお、ディックが話がつくってこたぁ己ぁ知ってたよ。」と舵手《コクスン》のイズレール・ハンズの声が答えた。「この男は馬鹿じゃねえからな、このディックは。」それから彼は噛煙草をぐにゃぐにゃやって唾をぺっと吐いた。「だが、おい、」と続けて言った。「己の聞かして貰《もれ》えてえのはこういうことさ、|肉焼き台《バービキュー》。一|体《てえ》、いつまで己たちはうろうろ舟みてえにぐずぐずしてるんだね? 己ぁもうスモレット船長《せんちょ》にゃうんざりしてる。奴は永《なげ》えこと己をこき使いやがったよ、畜生! 己ぁあの船室《ケビン》へ入りてえんだ、そうさ。奴らの漬物《ピックル》だの葡萄酒だの何だのがほしいんだ。」
「イズレール、」とシルヴァーが言った。「お前の頭は大して役に立たねえぞ、相変らずな。だがお前は聞くことだけは出来そうだ。何しろでっけえ耳をしているからな。ところで、己の言うことはこうだ。お前は水夫部屋に寝てるんだ、せっせと働くんだ、丁寧な口を利くんだ、酔っ払わずにいるんだ、己が命令するまではだ。その通りにしてるんだぞ、小僧。」
「うむ、いやだなんて己は言やしねえ。言ったけえ?」と舵手はぶつぶつ言った。「己の言うのは、いつだ? ってえんだ。それが己の言ってることなんだ。」
「いつだと! こん畜生!」とシルヴァーが叫んだ。「
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