ズ! こいつはまたゴア(註四五)の港の外でインド太守の船に乗込みのあった時にもいたんだよ。でも、こうして見ていると、まるで赤ん坊みてえに思えるだろう。だがお前《めえ》は火薬の臭《にお》いを嗅いだことがあるんだ、――そうだろ、船長?」
「針路転換用意。」と鸚鵡《おうむ》は金切声を立てる。
「ああ、利口な奴だ、こいつは。」と料理番は言って、ポケットから角砂糖を出して鸚鵡にやる。それから、その鳥は横木をつついて、信じられないほど口ぎたない言葉を吐き続ける。「ほら、ねえ、君、」とジョンが言い足す。「朱に交れば赤くなる、って奴さ。己のこの無邪気な鳥が、可哀そうに、こんなひどい言葉を使うんだからね。無論、何にも知らずにだよ。言わば牧師さんの前だってこれと同じことを言うんだろうからねえ。」そして、牧師さんと言うところで、彼はいつものしかつめらしいやり方で前髪に手を触れるので、私はこんなよい男はまたとあるまいと思ったものだった。
とかくしているうちにも、大地主さんとスモレット船長とはやはりよそよそしい間柄であった。大地主さんはそのことを少しも意に介しなかった。彼は船長を軽蔑した。船長の方は、話しかけられた時の他は決して口を利かなかったし、その話しかけられた時でも、つっけんどんで、ぶっきらぼうで、素気《そっけ》なく、一言も無駄口を利かなかった。一度言いこめられた時に、彼は、船員については自分は思い違いをしていたようだ、中には自分の希望通りに敏捷な者もいるし、みんながかなりよくやっている、と白状した。船に関しては、彼はそれがまったく気に入っていた。「この船はほとんど風上に間切《まぎ》っても進めますな。女房にだってこれほど言うことをきかせる訳にはゆきますまいよ。しかし、」と彼は言い足すのだった。「まあ、我々が帰国していないのが残念です。私はこの航海を好みません。」
大地主さんは、それを聞くと、ぷいと顔を背けて、頤を突き出しながら(註四六)、甲板をあちこちと歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]った。
「もうちっとでも失敬なことを言うと、俺《わし》の癇癪玉も破裂するぞ。」と彼はよく言った。
私たちは幾度か暴風に遭ったが、それはただヒスパニオーラ号の優良な性質を証拠立てただけであった。船の中の者は皆十分に満足しているようだった。そうでなければ、よくよくの気むずかし屋だったに違い
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