タスンにはそうではなかろうかと思われてならなかった。「そうだ、この男は医者だから、自分の容態や、自分の余命が幾らもないことを知っているに違いない。そしてそれを知っていることが彼には堪えられないのだ、」と彼は考えた。しかし、アッタスンが彼の顔色の悪いことを言ったとき、ラニョンは自分はもうやがて命のない人間だと非常にしっかりした態度で断言した。
「僕はひどいショックを受けたのだ、」と彼が言った。「そしてとても回復できないだろう。もうあと何週間かという問題だ。考えてみると、人生は楽しかった。僕は人生が好きだった。そうだよ、君、いつも人生が好きだった。だが、我々がすべてを知り尽したなら、死んでしまいたくなるだろう、と時々は思うことがあるよ。」
「ジーキルも病気なんだ、」とアッタスンが言った。「君はあれから会ったかね?」
 ラニョンの顔付きは変った。そして彼は震える片手を上げた。「僕はジーキル博士にはもう会いたくもないしあの男のことを聞きたくもない、」と彼は大きなきっぱりしない声で言った。「あの男とはすっかり縁を切ったのだ。だから、僕が死んだものと思っている人間のことはどうか一切言わないで貰いた
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