手紙の出来事

 アッタスン氏がジーキル博士の家の戸口へやっと辿り着いたのは、その日の午後おそくであった。彼はすぐプールに案内されて、台所の傍らを下り、もと庭園であった裏庭をよぎって、実験室とも解剖室ともどっちにも言われている建物へつれて行かれた。博士はこの家をある有名な外科医の相続人から買いとったのであるが、彼自身の趣味は解剖よりもむしろ化学の方だったので、庭園の奥にあるこの一棟の建物の使いみちを変えたのだった。弁護士が彼の友人の邸宅のこの部分に通されたのは初めてであった。で、彼は窓のないくすんだその建物を物珍しそうにじろじろ眺め、階段式になった解剖講堂を通りぬける時にはいやな奇妙な感じであたりを見回した。そこはもとは熱心な学生が一ぱいに詰めかけたものであるが、今ではもの淋しくひっそりしていて、テーブルの上には化学器械が積まれ、床《ゆか》には編みかごが転がり、荷造り用の藁が散らばっており、明りは霧のかかっている円天井からぼんやりと射しこんでいた。その講堂のもっと先に階段があって、それを上ると赤い粗羅紗を張ったドアのところへ来た。そしてこのドアを通って、アッタスン氏はやっと博士
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