アッタスン氏はハイドの名を聞いただけでもう心がひるんでいた。がステッキが前に置かれると、もう疑うことができなかった。折れていたんではいるけれども、それは何年も前に彼自身がヘンリー・ジーキルに贈ったステッキであることがわかったのだ。
「そのハイド氏というのは小柄な男ですか?」と彼は尋ねた。
「並外れて小柄で、並外れて人相が悪い、とその女中が言っているのです、」と警官が言った。
アッタスン氏は思案した。それからやがて顔を上げて言った、「僕の馬車で一緒にお出でになれば、その男の家へお連れできると思います。」
この時分には朝の九時頃になっていて、この季節になってから初めての霧が立ちこめていた。大きなチョコレート色の棺衣《かんおおい》のような霧が空一面に垂れ下っていた。しかし風が絶えず、この戦陣を張った水蒸気を、攻めて追い散らしていた。だから、馬車が街から街へとゆらゆら進んでゆく時に、アッタスン氏は、薄明りが濃く淡く驚くほどさまざまな色合いを示しているのを見た。あるところでは夕方遅くのように暗いかと思えば、またあるところでは、大火事か何かの明りのように、濃いもの凄い褐色の輝きがあった。また、
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