言って奇形なところはないが不具という印象を与えるし、不愉快な笑い方をするし、弁護士に対して臆病と大胆との混った一種凶悪な態度で振舞ったし、しゃがれた、囁くような、幾らかとぎれとぎれな声でものを言った。――これらすべての点は彼にとって不利であったが、しかし、これらをみんな一緒にしても、アッタスン氏がハイド氏に抱いた、これまで経験したことのない憎悪、嫌厭、恐怖を説明することができなかった。「ほかにまだ何かあるに違いない、」と、この困惑した紳士は言った。「何と言ってよいかわからんが、何かそれ以上のものが確かにある[#「ある」に傍点]のだ。ほんとに、あの男はどうも人間らしくないようだな! 何か穴居人のようなところがあると言おうか? それとも、あの昔話のフェル博士の*ようなものだろうか? それともまた、忌わしい霊魂から出る光が、あのように肉体から泌み出て、その肉体の形を変えたものなのだろうか? どうもそうらしいようだ。なぜなら、ああ気の毒なハリー・ジーキル、もしわたしがこれまで人間の顔に悪魔の相を見たことがあるとすれば、それは君の新しい友人のあの顔だ!」
その横町の角を曲ると、古風な立派な家の集まった一郭があったが、今では大部分はその高い身分からおちぶれて、一階ずつに、また部屋部屋に区切って、地図版画師や、建築師や、いかがわしい代言人や、インチキ企業家など、あるゆる身分階級の人々に貸してあった。しかし、角から二軒目の家だけが、今でもやはり、そのままそっくり一人の人が居住していた。玄関のあかり窓を除いて、今は闇に包まれてはいるけれども、いかにも富裕らしい趣きのあるその家の戸口のところで、アッタスン氏は立ち止って戸をたたいた。身装《みなり》のよい中年過ぎの召使が戸を開いた。
「ジーキル博士はお宅かね、プール?」と弁護士が尋ねた。
「見て参りましょう、アッタスンさま、」とプールは言いながら、客を、大きな、天井の低い、気持のよい広間に通した。そこは、床《ゆか》に板石がしいてあり、かっかと燃える、むき出しの炉で(田舎の屋敷風に)暖められ、樫の高価な用箪笥が備えつけてあった。「ここの暖炉のそばでお待ち下さいますか、旦那さま? それとも食堂に明りをつけてさしあげましょうか?」
「ここで結構、有難う、」と弁護士は言って、その高い炉囲いに近づいて、それに凭れかかった。今、彼がひとり取り残され
前へ
次へ
全76ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
スティーブンソン ロバート・ルイス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング