で行《ゆ》く。美《うつくし》い肉《にく》の脊筋《せすぢ》を掛《か》けて左右《さいう》へ開《ひら》く水《みづ》の姿《すがた》は、輕《かる》い羅《うすもの》を捌《さば》くやうです。其《そ》の膚《はだ》の白《しろ》い事《こと》、あの合歡花《ねむのはな》をぼかした色《いろ》なのは、豫《かね》て此《こ》の時《とき》のために用意《ようい》されたのかと思《おも》ふほどでした。
 動止《うごきや》んだ赤茶《あかちや》けた三俵法師《さんだらぼふし》が、私《わたし》の目《め》の前《まへ》に、惰力《だりよく》で、毛筋《けすぢ》を、ざわ/\とざわつかせて、うツぷうツぷ喘《あへ》いで居《ゐ》る。
 見《み》ると驚《おどろ》いた。ものは棕櫚《しゆろ》の毛《け》を引束《ひツつか》ねたに相違《さうゐ》はありません。が、人《ひと》が寄《よ》る途端《とたん》に、ぱちぱち豆《まめ》を燒《や》く音《おと》がして、ばら/\と飛着《とびつ》いた、棕櫚《しゆろ》の赤《あか》いのは、幾千萬《いくせんまん》とも數《かず》の知《し》れない蚤《のみ》の集團《かたまり》であつたのです。
 早《は》や、兩脚《りやうあし》が、むづ/\、脊筋《せ
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