《おそろし》い蚤《のみ》嫌《ぎら》ひで、唯《たゞ》一|匹《ぴき》にも、夜《よる》も晝《ひる》も悲鳴《ひめい》を上《あ》げる。其《そ》の悲《かな》しさに、別室《べつしつ》の閨《ねや》を造《つく》つて防《ふせ》いだけれども、防《ふせ》ぎ切《き》れない。で、果《はて》は亭主《ていしゆ》が、蚤《のみ》を除《よ》けるための蚤《のみ》の巣《す》に成《な》つて、棕櫚《しゆろ》の毛《け》を全身《ぜんしん》に纏《まと》つて、素裸《すつぱだか》で、寢室《しんしつ》の縁《えん》の下《した》へ潛《もぐ》り潛《もぐ》り、一夏《ひとなつ》のうちに狂死《くるひじに》をした。――
(まだ、迷《まよ》つて居《ゐ》さつしやるかなう、二人《ふたり》とも――旅《たび》の人《ひと》がの、あの忘《わす》れ沼《ぬま》では、同《おな》じ事《こと》を度々《たび/\》見《み》ます。)
旅籠屋《はたごや》での談話《はなし》であつた。」
工學士《こうがくし》は附《つ》けたして、
「……祠《ほこら》の其《そ》の縁《えん》の下《した》を見《み》ましたがね、……御存《ごぞん》じですか……異類《いるゐ》異形《いぎやう》な石《いし》がね。」
日《ひ》を經《へ》て工學士《こうがくし》から音信《おとづれ》して、あれは、乳香《にうかう》の樹《き》であらうと言《い》ふ。
底本:「鏡花全集 巻十六」岩波書店
1942(昭和17)年4月20日第1刷発行
1987(昭和62)年12月3日第3刷発行
入力:馬野哲一
校正:鈴木厚司
2000年12月13日公開
2005年11月24日修正
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