んき》な事《こと》を。落着《おちつ》いて相談《さうだん》と? ……此《こ》の上《うへ》何《なん》の相談《さうだん》を為《す》るんです。お浦《うら》を救《すく》ふのには一刻《いつこく》を争《あらそ》ふ、寸秒《すんべう》を惜《をし》む。早速《さつそく》さあ、人《ひと》の居《ゐ》ない小家《こや》、辻堂《つじだう》、祠《ほこら》、何《なん》でも構《かま》はん、其処《そこ》へ行《ゆ》かう。行《い》つて直《す》ぐに仕事《しごと》にかゝる。が、誰《たれ》も来《き》ては不可《いけな》い、屹《きつ》と来《き》ては不可《いけな》い、いづれ、やがて其《そ》の仕事《しごと》が出来《でき》ると、お浦《うら》と一所《いつしよ》に、諸共《もろとも》にお目《め》に懸《かゝ》つて更《あらた》めて御挨拶《ごあいさつ》をする。
しかし、恁《か》う言《い》ふのを信《しん》じないで、私《わたし》に任《ま》かせることを不安心《ふあんしん》と思《おも》ふなら、提灯《ちやうちん》の上《うへ》に松明《たいまつ》の数《かず》を殖《ふや》して、鉄砲《てつぱう》持参《じさん》で、隊《たい》を造《つく》つて、喇叭《らつぱ》を吹《ふ》いてお捜《さが》しなさい、其《それ》は御勝手《ごかつて》です。』
と嘲《あざ》けるやうに又《また》アハアハ笑《わら》ふ。いや、気味《きみ》の悪《わる》い……
『あれ、天狗様《てんぐさま》が憑移《のりうつ》らしやつた。』
『魔道《まだう》に墜《お》ちさしたものだんべい。』
と密《ひそめ》いて言《い》ふのが聞《きこ》えた。
が、最《も》う、そんな事《こと》に頓着《とんぢやく》しない。人間《にんげん》などには目《め》も懸《か》けないで、暗《くら》い中《なか》を矢鱈《やたら》に、其処等《そこいら》の樹《き》を眺《なが》めた。刻《きざ》むに佳《い》い枝《えだ》や、幹《みき》や、と目《め》を光《ひか》らす……これも眼前《がんぜん》、魔《ま》に心《こゝろ》を通《かよ》はす挙動《きよどう》の如《ごと》くに見《み》えたであらう。
けれども言出《いひだ》した事《こと》は、其《そ》の勢《いきほひ》だけに誰一人《たれいちにん》深切《しんせつ》づくにも敢《あへ》て留《と》めやうとするものは無《な》く、……其《そ》の同勢《どうぜい》で、ぞろ/\と温泉宿《をんせんやど》へ帰《かへ》る途中《とちゆう》、畷《なはて》を片傍《かたわき》に引込《ひつこ》んだ、森《もり》の中《なか》の、とある祠《ほこら》へ、送込《おくりこ》んだ……と言《い》ふよりは、づか/\踏込《ふみこ》んだ。後《あと》に踵《つ》いて来《き》て、渠等《かれら》は狐格子《きつねがうし》の外《そと》で留《と》まつたのである。
提灯《ちやうちん》を一個《ひとつ》引奪《ふんだく》つて、三段《さんだん》ばかりある階《きざはし》の正面《しやうめん》へ突立《つゝた》つて、一揆《いつき》を制《せい》するが如《ごと》く、大手《おほて》を拡《ひろ》げて、
『さあ、皆《みんな》帰《かへ》れ。而《そ》して誰《たれ》か宿屋《やどや》へ行《い》つて、私《わたし》の大鞄《おほかばん》を脊負《しよ》つて来《き》て貰《もら》はう。――中《なか》にすべて仕事《しごと》に必要《ひつえう》な道具《だうぐ》がある。……私《わたし》は最《も》う、あの座敷《ざしき》へ入《はい》つて、脱《ぬ》いである衣服《きもの》、解《と》いてある紅《あか》い扱帯《しごき》を見《み》るに忍《しの》びん。……彼《かれ》が魔物《まもの》の手《て》に懸《かゝ》つて、身悶《みもだ》へしながら、帯《おび》からはじめて解《と》き去《さ》らるゝのを目《め》の前《まへ》に見《み》るやうだから。』
親類《しんるゐ》の一人《いちにん》、インバネスを着《き》た男《をとこ》が真前《まつさき》に立《た》つて、皆《みな》ぞろ/\と帰《かへ》つた。……其《そ》の影《かげ》が潜《くゞ》つて出《で》る、祠《ほこら》の前《まへ》の、倒《たふ》れかゝつた木《き》の鳥居《とりゐ》に張《は》つた、何時《いつ》の時《とき》のか、注連縄《しめなは》の残《のこ》つたのが、二《ふた》ツ三《み》ツのたくつて、づらりと懸《かゝ》つた蛇《へび》に見《み》えた……
二十九
はて、面白《おもしろ》い。あれが天井《てんじやう》を伝《つた》ふ朽縄《くちなは》なら、其《そ》の下《した》に、しよんぼりと立《た》つた柱《はしら》は、直《す》ぐにお浦《うら》の姿《すがた》に成《な》る……取《と》つて像《ざう》を刻《きざ》む材料《ざいりやう》に遣《つか》うと為《し》やう。鋸《のこぎり》で挽《ひ》いて、女《をんな》の立像《りつざう》だけ抜《ぬ》いて取《と》る、と鳥居《とりゐ》は、片仮名《かたかな》のヰの字《じ》に成《な》つて、祠《
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