ひ行《ゆ》く幼《をさな》き者《もの》の唱歌《しやうか》なり。
草《くさ》を摘《つ》みつつ歌《うた》ふを聞《き》けば、
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拾乎《ひらを》、拾乎《ひらを》、豆《まめ》拾乎《ひらを》、
鬼《おに》の來《こ》ぬ間《ま》に豆《まめ》拾乎《ひらを》。
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古老《こらう》は眉《まゆ》を顰《ひそ》め、壯者《さうしや》は腕《うで》を扼《やく》し、嗚呼《あゝ》、兒等《こら》不祥《ふしやう》なり。輟《や》めよ、輟《や》めよ、何《なん》ぞ君《きみ》が代《よ》を細石《さゞれいし》に壽《ことぶ》かざる!
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などと小言《こごと》をおつしやるけれど、拾《ひろ》はにやならぬ、いんまの間《ま》。
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斯《か》くの如《ごと》く言消《いひけ》して更《さら》に又《また》、
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拾乎《ひらを》、拾乎《ひらを》、豆《まめ》拾乎《ひらを》、
鬼《おに》の來《こ》ぬ間《ま》に豆《まめ》拾乎《ひらを》。
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と唱《とな》へ出《いだ》す節《ふし》は泣《な》くがごとく、怨《うら》むがごとく、いつも(應《おう》)の來《きた》りて市街《しがい》を横行《わうかう》するに從《したが》うて、件《くだん》の童謠《どうえう》東西《とうざい》に湧《わ》き、南北《なんぼく》に和《わ》し、言語《ごんご》に斷《た》えたる不快《ふくわい》嫌惡《けんを》の情《じやう》を喚起《よびおこ》して、市人《いちびと》の耳《みゝ》を掩《おほ》はざるなし。
童謠《どうえう》は(應《おう》)が始《はじ》めて來《きた》りし稍《やゝ》以前《いぜん》より、何處《いづこ》より傳《つた》へたりとも知《し》らず流行《りうかう》せるものにして、爾來《じらい》父母※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、112−8]兄《ふぼしけい》が誑《だま》しつ、賺《すか》しつ制《せい》すれども、頑《ぐわん》として少《すこ》しも肯《き》かざりき。
都人士《とじんし》もし此事《このこと》を疑《うたが》はば、請《こ》ふ直《たゞ》ちに來《きた》れ。上野《うへの》の汽車《きしや》最後《さいご》の停車場《ステエシヨン》に達《たつ》すれば、碓氷峠《うすひたうげ》の馬車《ばしや》に搖《ゆ》られ、再《ふたゝ》び汽車《きしや》にて
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