ず、殊《こと》に一|軒家《けんや》、あけ開《ひら》いたなり門《もん》といふでもない、突然《いきなり》破椽《やぶれえん》になつて男《をとこ》が一人《ひとり》、私《わし》はもう何《なん》の見境《みさかひ》もなく、(頼《たの》みます、頼《たの》みます、)といふさへ助《たすけ》を呼《よ》ぶやうな調子《てうし》で、取縋《とりすが》らぬばかりにした。
(御免《ごめん》なさいまし、)といつたがものもいはない、首筋《くびすぢ》をぐつたりと、耳《みゝ》を肩《かた》で塞《ふさ》ぐほど顔《かほ》を横《よこ》にしたまゝ小児《こども》らしい、意味《いみ》のない、然《しか》もぼつちりした目《め》で、ぢろ/″\と、門《もん》に立《た》つたものを瞻《みつ》める、其《そ》の瞳《ひとみ》を動《うご》かすさい、おつくうらしい、気《き》の抜《ぬ》けた身《み》の持方《もちかた》。裾《すそ》短《みぢ》かで袖《そで》は肱《ひぢ》より少《すくな》い、糊気《のりけ》のある、ちやん/\を着《き》て、胸《むね》のあたりで紐《ひも》で結《ゆは》へたが、一ツ身《み》のものを着《き》たやうに出《で》ツ腹《ばら》の太《ふと》り肉《じゝ》、太鼓《た
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