人《ふたり》して、其時《そのとき》の婦人《をんな》が裸体《はだか》になつて、私《わし》が背中《せなか》へ呼吸《いき》が通《かよ》つて、微妙《びめう》な薫《かほり》の花《はな》びらに暖《あたゝか》に包《つゝ》まれたら、其《その》まゝ命《いのち》が失《う》せても可《い》い!
 瀧《たき》の水《みづ》を見《み》るにつけても耐《た》へ難《がた》いのは其事《そのこと》であつた、いや、冷汗《ひやあせ》が流《なが》れますて。
 其上《そのうへ》、もう気《き》がたるみ、筋《すぢ》が弛《ゆる》んで、早《は》や歩行《ある》くのに飽《あき》が来《き》て喜《よろこ》ばねばならぬ人家《じんか》が近《ちかづ》いたのも、高《たか》がよくされて口《くち》の臭《くさ》い婆《ばあ》さんに渋茶《しぶちや》を振舞《ふるま》はれるのが関《せき》の山《やま》と、里《さと》へ入《い》るのも厭《いや》になつたから、石《いし》の上《うへ》へ膝《ひざ》を懸《か》けた、丁度《ちやうど》目《め》の下《した》にある瀧《たき》ぢやつた、これがさ、後《あと》に聞《き》くと女夫瀧《めうとたき》と言《い》ふさうで。
 真中《まんなか》に先《ま》づ鰐鮫《わにざめ》が口《くち》をあいたやうな尖《さき》のとがつた黒《くろ》い大巌《おほいは》が突出《つきで》て居《ゐ》ると、上《うへ》から流《なが》れて来《く》る颯《さツ》と瀬《せ》の早《はや》い谷川《たにがは》が、之《これ》に当《あた》つて両《ふたつ》に岐《わか》れて、凡《およ》そ四|丈《ぢやう》ばかりの瀧《たき》になつて哄《どツ》と落《お》ちて、又《また》暗碧《あんぺき》に白布《しろぬの》を織《お》つて矢《や》を射《ゐ》るやうに里《さと》へ出《で》るのぢやが、其《その》巌《いは》にせかれた方《はう》は六|尺《しやく》ばかり、之《これ》は川《かは》の一|巾《はゞ》を裂《さ》いて糸《いと》も乱《みだ》れず、一|方《ぱう》は巾《はゞ》が狭《せま》い、三|尺《じやく》位《ぐらゐ》、この下《した》には雑多《ざツた》な岩《いは》が並《なら》ぶと見《み》えて、ちら/\ちら/\と玉《たま》の簾《すだれ》を百千《ひやくせん》に砕《くだ》いたやう、件《くだん》の鰐鮫《わにざめ》の巌《いは》に、すれつ、縺《もつ》れつ。」

         第二十五

「唯《たゞ》一|筋《すぢ》でも岩《いは》を越《こ》して男
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