うぢやが、恐《おそ》らくこりや白痴《ばか》の所為《せゐ》ぢやて。
其時《そのとき》よ。
座《ざ》が白《しら》けて、暫《しば》らく言葉《ことば》が途絶《とだ》えたうちに所在《しよざい》がないので、唄《うた》うたひの太夫《たいふ》、退屈《たいくつ》をしたと見《み》えて顔《かほ》の前《まへ》の行燈《あんどう》を吸込《すひこ》むやうな大欠伸《おほあくび》をしたから。
身動《みうご》きをしてな、
(寝《ね》ようちやあ、寝《ね》ようちやあ。)とよた/\体《からだ》を取扱《もちあつか》ふわい。
(眠《ねむ》うなつたのかい、もうお寝《ね》か、)といつたが座《すは》り直《なほ》つて弗《ふ》と気《き》がついたやうに四辺《あたり》を※[#「目+旬」、第3水準1−88−80]《みまは》した。戸外《おもて》は恰《あたか》も真昼《まひる》のやう、月《つき》の光《ひかり》は開《あ》け広《ひろ》げた家《や》の内《うち》へはら/\とさして、紫陽花《あぢさい》の色《いろ》も鮮麗《あざやか》に蒼《あを》かつた。
(貴僧《あなた》ももうお休《やす》みなさいますか。)
(はい、御厄介《ごやくかい》にあいなりまする。)
(まあ、いま宿《やど》を寝《ね》かします、おゆつくりなさいましな。戸外《おもて》へは近《ちか》うござんすが、夏《なつ》は広《ひろ》い方《はう》が結句《けツく》宜《よ》うございませう、私《わたくし》どもは納戸《なんど》へ臥《ふ》せりますから、貴僧《あなた》は此処《こゝ》へお広《ひろ》くお寛《くつろ》ぎが可《よ》うござんす、一寸《ちよいと》待《ま》つて。)といひかけて衝《つツ》と立《た》ち、つか/\と足早《あしばや》に土間《どま》へ下《お》りた、余《あま》り身《み》のこなしが活溌《くわツぱつ》であつたので、其《そ》の拍手《ひやうし》に黒髪《くろかみ》が先《さき》を巻《ま》いたまゝ頷《うなぢ》へ崩《くづ》れた。
鬢《びん》をおさへて、戸《と》につかまつて、戸外《おもて》を透《す》かしたが、独言《ひとりごと》をした。
(おや/\さつきの騒《さわ》ぎで櫛《くし》を落《おと》したさうな。)
いかさま馬《うま》の腹《はら》を潜《くゞ》つた時《とき》ぢや。」
第二十三
此折《このをり》から下《した》の廊下《らうか》に跫音《あしおと》がして、静《しづか》に大跨《おほまた》に歩行
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