たら、男女合せてほぼこれの倍数である弐千五百万を計上することになり、我国総人口の約四割、現在有権者数の約十七倍に当ります。そうなってこそ真実の意味で国民全体の政治ということも出来、私たち自身の政治ということも出来ると思います。
 こういう自分の見地から、私は次の一文を、紀元節の日に青年会館で催された普通選挙同盟演説会の男子たちに寄せました。私は婦人も進んでこの運動に参加することは、かの基督《キリスト》教婦人の慈善運動や、少年禁酒運動や、廃娼運動以上に緊急の必要を持っていると考えるのです。それらの運動の如きも、一旦婦人参政権の回復を遂行さえすれば、それに依って今よりも幾倍か容易に実現され得べき運動であるからです。私は聡明と沈着とを備えられた婦人たちが、この普通選挙運動について、各自の意見と態度とを速《すみや》かに一定して頂きたいと思います。
「私たち日本の婦人が治安警察法に依って禁錮状態にある限り、今日のような政治的の集会に対し、私は、私の魂のみを文章に托して送る外はありません。
 皆さん、この事が――即ちこの会合へ私という一人の日本人が、その女性であるという条件だけで、出席することを他律的に禁じられているという事が――今日ここに普通選挙を要求せずにいられない一つの最大理由ではないでしょうか。
 皆さんは納税資格に依る選挙権の制限を不法と認めておいでになります。それには何人《なんぴと》も異論がありません。しかし今日、それのみの撤廃を要求する普通選挙は不徹底です。自由と平等とを重ぜられる聡明な皆さんに私は熱望します。一挙して男女の性別に依る選挙権の制限をも撤廃して頂くことを。即ち私たち婦人の政治的権利の喪失をも回復して頂くことを。
 もし婦人参政尚早論を唱えてこれに反対する人々があるなら、納税資格者以外の一般男子を非愛国者の如くに見て普通選挙尚早論を唱える人々と、その不徹底論者たることにおいて大差はないと思います。
 「満二十五歳以上の日本人は男女の別なく一斉に選挙権を享有すること」、私の要求する普通選挙はこれです。婦人の参政権を除外した普通選挙は、政治を以て全日本人の政治たらしめようとする――愛と理性に富んだ――真の民主主義者をして満足せしめません。
 私は皆さんの徹底した御努力を、特に日本婦人の現在の立場から祈ります」(一九一九年二月)
[#地より1字上げ](『婦人公論』一九一九年三月)



底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店
   1985(昭和60)年8月16日初版発行
   1994(平成6年)年6月6日10刷発行
底本の親本:「激動の中を行く」アルス
   1919(大正8)年8月初版発行
入力:Nana ohbe
校正:門田裕志
2002年5月14日作成
2003年5月18日修正
青空文庫ファイル:
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