活者と称することが出来ると思います。
 この創造能力は一切の人類が個性として具有しているものであって、これを実際に用いて生活のあらゆる体系――個人生活、家庭生活、国民生活、世界生活――に新しい創造を試みたるために、人間は如何なる自己以外の権力にも圧倒されないだけの「自由独立の権利」を持っています。例えば教育の自由、思想の自由、言論の自由、職業の自由の類がそれです。また、この創造能力を用いてあらゆる生活の体系に貢献するために、個人個人がこの能力を開展する機会を均等にする権利、即ち「平等の権利」を持っています。例えば貴族の子も乞食の子も学齢に達すれば平等に教育を受けることが出来ます。これは教育を受ける機会の平等です。また学術上の実力さえあれば、富豪の子弟も貧民の子弟も平等の学位を請求することが出来ます。これは学位を受ける機会の平等です。貧富貴賤、士農工商に依って階級の差等や権利の差等を認めず、一斉に同じ出発点に立って創造能力の競争に参加し得るのが「平等の権利」です。或階級の人間だけが特別の権利を持って、便宜の多い偏頗《へんぱ》な生活をするというようなことのないために必要なものが、この「平等の権利」です。
 近頃の流行語である「民主主義」というものも、原語のデモクラシイが十八世紀や十九世紀で持っていた意味とは違って非常に進化し、要するに今日の解釈では茲《ここ》にいう平等の権利を主張する思想に外ならないということを、私たちは学者に依って教えられます。「民主主義」が専ら政治上の標語であったのは過去のことで、今はあらゆる生活の体系にこの語を用います。即ち産業組織の民主主義化、文学美術の民主主義化、家庭の民主主義化という類です。例えば、家庭の民主主義化というのは、夫婦の愛情の平等、夫婦の経済的労働の平等、夫婦の財産権の平等、父権と母権の平等、親と子との権利の平等、兄弟姉妹の権利の平等の如きをいい、政治上や学問上に民主主義を唱える人でも、家庭において特に父権や、良人の権利や、兄の権利を偏重し、自己以外の家族の持っている正当な個人的の権利を圧制|蹂躙《じゅうりん》するような言動があれば、その人は決して民主主義の徹底した実行者とはいわれないのです。良人を凌圧《りょうあつ》したり、妻を虐待したり、我子を打擲《ちょうちゃく》したりする男女は、如何に民主主義を口にしても、その実質は各人に固有する「平等の権利」を解しない専制主義者、官僚主義者、軍国主義者を以て蔑視すべき男女であるのです。
 さて、普通選挙を要求するというのは、実にこの民主主義的の権利を――平等の権利を――日本人全体が政治の上に得て、国民として政治に参与する機会の均等を持とうとするがために外ならないのです。我々は日本国民たることにおいて平等です。国家を愛し、あらゆる職業と労作を通じて、精神的及び物質的に国家に貢献していること、即ち国民としての義務を行っていることにおいて平等です。この愛国心と、この国民的義務の負担とにおいて平等である我々が、どうして国家の政治に参与する権利においては不平等な待遇を受けねばならないでしょうか。
 国家は国民全体の勤務に依って支持されて行くものです。国家は国民全体の協力の中に生存し発達して行くものです。一旦緩急あれば義勇を以て公(即ち国家)に奉ずるのみならず、個人が日々の勤労は直接または間接に国家のために計っているのです。民主主義の家庭は、その家長の専制に依って家政を決することなく、必ず家庭の協同員たる独立の人格を持った年頃の家族と共に公平に合議して決せねばならぬ如く、国家の政治もまた国民全体の意志に依って決することが、合理的な民主主義の政治である限り、或年頃に達して独立の人格を持った国民――例えば満二十五歳以上に達して、白痴でなく、六カ月以上一定の地に住し、現に刑罰に処せられていない者――こういう意味の国民全体が衆議院議員の選挙権と被選挙権とを持って、間接または直接に国家の政治に参与することは、立憲国民に固より備った正当な権利であるのです。かくてこそ初めて国民全体が平等に参与する政治、即ち民主主義の政治と称することが許されると思います。
 こう考えて来ると、従来の納税額を標準とした選挙権の分配の如何に不公平であるかは細論せずして明白になります。従来のように直接国税拾円を選挙資格とすると、国民の中から参政権を持つ者は纔《わず》かに百四十二万二千百十八人(大正六年)を数えるに過ぎず、これを今度憲政会から提出した改正案のように納税額を弐円に引下げたとしても、この倍数である三百万人内外の選挙有権者を得るに止まっています。かような少数の人数に由って選挙された衆議院議員が国民全体の政治的代表者といわれないことは弁ずるまでもありません。
 納税額を標準とする選挙法の第一の不
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