種の變化より無くて、日本のに比べては技巧の拙いことを思はせるのであるが、滿一時間少時も休む間無しに打上げられる壯觀は、煙花は消えるもの、樂しさとはかなさとを續いて思はせるものだなどとは、夢にも思はれない華美な珍らしい感を與へられるのであつた。二十分程のうちに其後の空に火の色の雲が出來た。最終のは殊に大きく長く續いてセエヌ河も亦火の河になるかと思はれる程であつた。今夜は辻待の自動車や馬車が大方休んで居て偶にあつても平生の四倍ぐらゐの價を云ふので、自分等は其處からゆるゆると※[#「井に濁点」、564−16]クトル・マツセの下宿まで歩いて歸つた。途中の街々のイルミナシヨンの中ではオペラの前の王冠が一番好いと思つた。寢臺へ疲れた身體を横たへ乍ら、街街の廣場の俄拵への囃し場で奏して居る音樂に伴れて多數の男女が一對の團を作り乍ら樂しさうに踊つて居た事などを思つて、微笑んで居た。門涼みをして居る人達までもじつとしては居られない氣持になつて、暗がりに手を擴げて踊る振をして居た事なども思ひ出された。女中のマリイは曉方の四時に歸つたと、次の日に話して居た。(七月十五日)
底本:「定本 與謝野晶子全集 第二十卷 評論感想集七」講談社
1981(昭和56)年4月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Nana ohbe
校正:今井忠夫
2003年12月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング