なければなりません。
 平塚さんを首唱者として新婦人協会が成立したということについて、私は心の底から多大の喜びを感じました。それは最近の婦人会における第一の吉報だと思います。日本婦人の総動員はいろいろの意味で非常に必要です。首唱者としても、統率者としても絶好の適任者を得ました。私は平塚さんが進んで自らこの重任に当られた熱誠と勇気とに敬服します。私はその事を聞くや否や、早速新聞雑誌を通じて平塚さんに対する感謝を書いて置きましたから、此処《ここ》にはそれを繰返さず置きます。
 平塚さんから協会の創立された通知を受けて以来、私が最も真面目に注視せずにおられなかったことは、協会の第一著の運動が如何なる問題に由って始められるかということでした。私は窃《ひそ》かに、それが現下の問題となっている普通選挙の要求と関連して、女子の参政権をも認容した普通選挙運動の目標の下に、全国の婦人団体を糾合《きゅうごう》されることであろうと期待していました。しかるに私の期待は逸《そ》れて、平塚さんたちは「治安警察法第五条の修正」と「花柳《かりゅう》病男子の結婚制限」という二種の請願を貴衆両院へ提出することを以て第一著の運動とされるのでした。私はそれに対して多少の遺憾があります。私が此処《ここ》にそれを率直に述べるのは、固《もと》より新婦人協会の事業を、首唱者たる平塚さんたちのみの責任とせずに、日本婦人全体の連帯責任と見て、私たちもその責任を快く分担の出来るように、協会の事業をなるべく合理的に照準して欲しいと思うからです。
 女史が政社に加入し政談集会に出入することの自由を要求するために、治安警察法第五条の撤廃を請願することは議論の余地がありません。この問題は私も数年前から機会のあるたびに述べています。しかしこれは男女の性別を問わない所の普通選挙さえ実現するなら、おのずから解決されてしまうべき問題です。平塚さんはこの請願の理由を説明して「私どもはこれを以て近き将来において著手しようとする婦人参政権要求運動の下準備ぐらいに考えている」といわれていますが、私にはかえって順序が顛倒されているように思われます。人ごとに見る所を異にしているからといわれるならそれまでですが、私は政界の急進分子が珍しくも男女平等主義の普通選挙を唱え初めたのに呼応して、なぜこの好い機会に協会の主唱に成る婦人団体総連合の勢力を以て婦
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