くいしゅくせい》を学ぶ者は殆ど今の時代になかろうと思います。
 富山県の片田舎に住む漁民の妻女たちが数百人大挙して米|一揆《いっき》を起したのが、偶然とはいえ、この度の騒動の口火となったということは、このたびの騒動の主因を最も好く説明しております。彼らは最も米穀の供給の尠《すくな》い土地に住み、そうして高価な米を買うことの最も困難な境遇にいて、この一両年間、絶えず日々の食糧に苦心を払い、殊に最近三カ月以来は米価の可速度的[#「可速度的」はママ]な暴騰につれて減食の苦痛を続け、最後に一升五十銭を越すという絶体絶命の窮境に追い詰められ、饑餓と死の間に挟まるに及んで、恥も道徳も忘れた(忘れざるを得なかった)最後の非常手段を取るに到りました。私たち無産階級の婦人はいずれも家庭にあって厨《くりや》を司《つかさど》っているだけ、食糧の欠乏については人一倍その苦痛を迅速にかつ切実に感じます。彼ら漁民の妻女たちが、たとい自分たちは飢えても、両親、良人、子供たちには出来るだけ食べさせたいと思う心から、その苦痛の絶頂に達した時、何人よりも先に忍耐を破ったのに対して、私は十二分の同情を寄せずにいられません。
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