はママ]ても
いまは戦ふ時である。
歌はどうして作る
歌はどうして作る。
じつと観《み》、
じつと愛し、
じつと抱きしめて作る。
何《なに》を。
「真実」を。
「真実」は何処《どこ》に在る。
最も近くに在る。
いつも自分と一所《いつしよ》に、
この目の観《み》る下《もと》、
この心の愛する前、
わが両手の中に。
「真実」は
美《うつ》くしい人魚、
跳《は》ね且《か》つ踊る、
ぴちぴちと踊る。
わが両手の中で、
わが感激の涙に濡《ぬ》れながら。
疑ふ人は来て見よ、
わが両手の中の人魚は
自然の海を出たまま、
一つ一つの鱗《うろこ》が
大理石《おほりせき》[#ルビの「おほりせき」はママ]の純白《じゆんぱく》のうへに
薔薇《ばら》の花の反射を持つてゐる。
新しい人人
みんな何《なに》かを持つてゐる、
みんな何《なに》かを持つてゐる。
後ろから来る女の一列《いちれつ》、
みんな何《なに》かを持つてゐる。
一人《ひとり》は右の手の上に
小さな青玉《せいぎよく》の宝塔。
一人《ひとり》は薔薇《ばら》と睡蓮《すいれん》の
ふくいくと香る花束。
一人《ひとり》は左の腋《わき》に
革表紙《かはべうし》の金字《きんじ》の書物。
一人《ひとり》は肩の上に地球儀。
一人《ひとり》は両手に大きな竪琴《たてごと》。
わたしには何《な》んにも無い
わたしには何《な》んにも無い。
身一つで踊るより外《ほか》に
わたしには何《な》んにも無い。
黒猫
押しやれども、
またしても膝《ひざ》に上《のぼ》る黒猫。
生きた天鵝絨《びろうど》よ、
憎からぬ黒猫の手ざはり。
ねむたげな黒猫の目、
その奥から射る野性の力。
どうした機会《はずみ》[#ルビの「はずみ」は底本では「はみ」]やら、をりをり、
緑金《りよくこん》に光るわが膝《ひざ》の黒猫。
曲馬の馬
競馬の馬の打勝たんとする鋭さならで
曲馬《きよくば》の馬は我を棄《す》てし
服従の素速《すばや》き気転なり。
曲馬《きよくば》の馬の痩《や》せたるは、
競馬の馬の逞《たくま》しく美《うつ》くしき優形《やさがた》と異なりぬ。
常に飢《ひも》じきが為《た》め。
競馬の馬もいと稀《まれ》に鞭《むち》を受く。
されど寧《むし》ろ求めて鞭《むち》打たれ、その刺戟に跳《をど》る。
曲馬《きよくば
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