き蝋燭《らふそく》の銀の光を高くさしかざせば、
滴《したゝ》る蝋《らふ》のしづく涙と共に散りて、
黄なる睡蓮《すいれん》の花となり、又しろき鱗《うろこ》の魚《うを》となりぬ。
かかる夢見しは覚めたる後《のち》も清清《すがすが》し。
[#1行アキは底本ではなし]されど、又、かなしきは或夜《あるよ》の夢なりき。
君が大船《おほふね》の窓の火ややに消えゆき、
唯《た》だ一つ残れる最後の薄き光に、
われ外《そと》より硝子《がらす》ごしにさし覗《のぞ》けば、
われならぬ面《おも》やつれせしわが影既に内《うち》にありて、
あはれ君が棺《ひつぎ》の前にさめざめと泣き伏すなり。
「われをも内《うち》に入《い》れ給《たま》へ」と叫べど、
外《そと》は波風の音おどろしく、
内《うち》はうらうへに鉛の如《ごと》く静かに重く冷たし。
泣けるわが影は
氷の如《ごと》く、霞《かすみ》の如《ごと》く、透《す》きとほる影の身なれば、
わが声を聴かぬにやあらん。
われは胸も裂くるばかり苛立《いらだ》ち、
扉の方《かた》より馳《は》せ入《い》らんと、
三《み》たび五《いつ》たび甲板《でつき》の上を繞《めぐ》れど、
皆堅く鎖《とざ》して入《い》るべき口も無し。
もとの硝子《がらす》窓に寄りて足ずりする時、
第三のわが影、艫《とも》の方《かた》の渦巻く浪《なみ》にまじり、
青白く長き手に抜手《ぬきで》きつて泳ぎつつ、
「は、は、は、は、そは皆物好きなるわが夫《せ》の君のわれを試《た》めす戯れぞ」と笑ひき。
覚めて後《のち》、我はその第三の我を憎みて、
日《ひ》ひと日《ひ》腹だちぬ。
ひとり寝
良人《をつと》の留守の一人《ひとり》寝に、
わたしは何《なに》を著《き》て寝よう。
日本の女のすべて著《き》る
じみな寝間著《ねまき》はみすぼらし、
非人《ひにん》の姿「死」の下絵、
わが子の前もけすさまじ。
わたしは矢張《やはり》ちりめんの
夜明《よあけ》の色の茜染《あかねぞめ》、
長襦袢《ながじゆばん》をば選びましよ。
重い狭霧《さぎり》がしつとりと
花に降るよな肌ざはり、
女に生れたしあはせも
これを著《き》るたび思はれる。
斜《はす》に裾《すそ》曳《ひ》く長襦袢《ながじゆばん》、
つい解けかかる襟もとを
軽く合せるその時は、
何《なん》のあてなくあこがれて
若さに逸《はや》るたましひを
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